イミラバ | ナノ


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「りいっちゃん、いいよ。サクラちゃんのヤクザ嫌いは知ってるし、オレは全然気にしてないから」

全然気にしていないというのもどうかと思うが、本人がいいというならそれ以上俺がどうこういうのも出過ぎた真似で、ああ、そう。と若干気抜けしつつ引き下がる。あまり食い下がって俺が火種で揉めては元も子もない。

「そういうわけで詩乃ちゃんに協力してもらうっていうのは無理だから、誘拐ってかたちで話を進めるとして。それにもひとつ問題があるんだよね」

誘拐なんてどう考えても普通に問題行為なわけだが、神田がそのあたりを気にしているとは思えない。ていうか誘拐する計画で勝手に話を進めていることに、ひとまず突っ込んでおいたほうがいいんじゃないか。放っておいたら俺たちみんな前科持ちだ。

「あのな、神田」
「会食会の話が持ち上がった頃から、詩乃ちゃん浅北さんの監視下にあるんだよね。24時間体制で見張りが張りついてるし、外出も禁止されてて、学校以外は外に出てこない。うちのパパでさえも会わせてもらえないんだって。詩乃ちゃんと接触したくても、それがなかなか難しいんだ」
「なんだよそれ、まじ最低…」

神田の暴走を止めようとしていたはずが、詩乃がおかれている状況を聞いて考えが変わった。諌めようとする言葉が、浅北さんへの非難に変わる。
脅迫で精神的に追い詰めて、それだけじゃなく体の自由まで拘束して言うことをきかせようとする浅北さんのやり方が腹立たしい。
詩乃はまだ成人もしていない高校生の女の子なのに、そんな相手にそこまでするなんてあまりにも非道すぎる。

「なぁ、神田」
「んー?」
「俺たちが詩乃さんを誘拐すれば、彼女を助けられるんだな?」
「そうだよ。詩乃ちゃんも助けられるし、浅北さんの企みも阻止できる」
「わかった」

それならやるしかないだろう。詩乃のことも、浅北さんのことも、このまま放っておくことは出来ない。その二つがなんとかなるというなら、そのために方法がひとつしかないというなら、やってやろうじゃないか。

「いいのかよ、岸田」
「うん。でも誘拐するのは上辺だけね。もし詩乃さんが嫌だっていったらすぐに帰す」
「方向性は決まったし、あとはそれについての問題点の解決といこうか」
「おー…お?」

いつの間にか神田が進行役になっている。のはいいとして、いざこれから話し合いをという気にさせておきながら、俺たちを放置してどこかに電話をかけだした神田に思い切り肩透かしをくらわされた。

「あ、ユッコちゃん?」

ユッコちゃんって誰だよ。誰と話してんだよ。女か。こんなときに女と電話か。

「昨日のお店、美味しかったねぇ。あれ、なんていったっけ。ほら、えーっと、あ、フロマージュ?そうそう、それ。お土産にやっぱり買って帰ればよかったよー」

しかも昨日デートしてたの?てかいまそういう話してる場合じゃないと思うんだけど。ほら、高梨。高梨ガツンと言ってやって!
そんな願いを込めて高梨を見れば、神田を見ている高梨の目に殺意が見え、おもむろに振り上げられた腕にちょっと待てと飛びついた。
腹が立つのはわかるけれど、目の前で一応友達の神田と怖いけど友達の高梨の殺人劇が繰り広げられるのは遠慮したい。

「だぁっ、高梨、落ち着け!殺人はダメだって!!」
「離せっ。あいつマジ殺すっ」
「もう、二人ともちょっと静かにしてよ。いま大事な話するんだから」
「「てめぇの脳みそが落ち着け!!」」

おまえのことで高梨がブチ切れて、おまえのためにそれを俺が宥めてやってるんだろうが。神田の胸倉を掴んで脳みそがシャッフルされるほど揺さぶってやりたい。やりたいが、その衝動をグッとこらえる。いまこの手を離したら、恐ろしい事件が起こりそうで怖くて離せない。

「なんなの、二人とも。あ、ごめんね。うん、大丈夫。それで昨日頼まれたことなんだけど、べつにいいよ。あ、でもちょっと条件があるんだよね。うん?いや、そんな難しいことじゃないよ。ユッコちゃんにはほんの少し協力してもらうだけ。詳しい話は会って喋ろう。今日の夜、ユッコちゃんの家に行くから。はーい、じゃあね」

やっと電話が終わったか。時間にしてみれば数分のことだったかもしれないが、荒ぶる高梨を必死に押さえ込んでいた俺にはその時間が数倍にも長く感じた。
ほんと死ぬかと思った。そんな俺の懸命な戦いなんて気にも留めず、神田が縺れ合っている俺たちをみて肩を竦め。

「ちょっと二人とも、いちゃついてる場合じゃないでしょー?」

神田マジ殺す!!!


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