昼休みに、弁当を食べ終えた私は暇を持て余していた。友達は皆、部活の先輩の呼び出しで教室から出て行ってしまった。こういう時に、仲の良い友達が皆同じ部活に所属していると寂しい。
私は、窓際の一番後ろという自席から椅子だけ窓の側に移動をする。特にすることもないのでこのまま時間でも潰そうと、窓枠に頬杖をついて外をぼんやりと眺める。勿論、窓は開け放たれている。
よく晴れたいい天気だ。どこまでも続く眩しいくらいの青空に浮かぶ白い雲。実に夏らしい。暑いけれど、こんないい天気の日にはどこかへ出かけたくなるものだ。そんなことを考えていると、私の名前を呼ぶ声がすぐ側から聞こえた。背後でも真横でもない。下の方からである。窓の外はベランダになっているので、誰かいるのだろうかと頬杖を解き、窓から顔を出し下を覗きこんでみるとそこには高尾がしゃがんでいた。


「何してんの?」
「しーっ!」


最もな疑問を投げかければ、人差し指を口に当ててみせる高尾。まあ、何故高尾がこんなところに隠れるようにしているのかは大方予想がつくのだけれど。


「まあた、緑間くんに何かしたんでしょ?」
「まー、そんなとこー。つーわけで、匿って」
「しゃーないなー」


やはり、か。いつものことである。緑間くんに悪戯をして逃げてきたらしい。高尾が悪戯をするのはいつものことであるけれど、つい悪ノリをし過ぎてやりすぎでしまったのだろう。高尾の性格からしてみれば、実に高尾らしいと私は思うのだけれど。
それにしても、この高尾とのやり取りは高校に入学をしてから何回目だろうか?高尾に悪戯をされる緑間くんが少しだけ可哀想であるとは思う。けれど、その二人のやり取りを眺めては楽しんでいる私がいるのも事実である。それは勿論、秘密であるけれど。
高尾とは、中学からの付き合いである。腐れ縁と言った方がいいのかもしれないけれど。中学でずっと同じクラスだったこともあり、よく話す仲になった。高尾が話しやすいという高尾の人柄もあると思う。
高校では違うクラスになったけれども、何だかんだと理由をつけてこうして私のクラスに高尾はやって来る。実はそれが嬉しかったりするのだけれど、それを楽しみにしていたりするのだけれど――勿論、これも秘密である。
秘密が多い?そう、感じるかもしれない。いっておくが私は決して秘密主義ではない。かといって、口が軽いわけでもないけれど。そういえば、女は秘密を持って美しくなるとかそういうことをどこかで聞いたことがある。つまり、そういうことにしておこう。別に美しさに自信があるわけではないけれど。
再び名前を呼ばれた。今度は背後からである。振り向けば、同じクラスの男子が教室の後ろの出入り口で私を手招きしている。その側には緑間くんがいるので、十中八九高尾を探しに来たのだろう。椅子から立ち上がり、教室の後ろの出入り口まで行くと私の予想は的中した。


「高尾を見なかったか?」
「んー、見てないなー」
「そうか」
「屋上とかかもね」


緑間くんには悪いが、適当なことを言った。先に高尾に匿ってとお願いされていたので、そっちを優先させたまでである。
緑間くんは、私に軽く礼を言うと教室を後にした。礼を言われるようなことはしていない。寧ろ、私は謝罪をすべきであるのに。心の中で去って行く緑間くんの後ろ姿に謝罪しておいた。
窓の側に置いていた椅子のところへ戻り、未だベランダでしゃがんでいる高尾に声をかけた。


「行ったよ緑間くん」
「サーンキュ」
「どーいたしましてー。ねえ、そこ暑くない?」


冒頭でも述べたが、今日はよく晴れたいい天気である。ベランダに日陰を作るものは何もない。直接、夏の日差しに照らされる。


「あーあちぃわ…」


手をパタパタとうちわ代わりに煽いでみせる高尾。
私は、机の中から下敷きを取り出すと窓から手を出して高尾にそれを手渡した。


「貸したげる」
「おー、サンキュー」


高尾は下敷きを受け取り「あー涼しいー」とパタパタと煽いだ。その風で揺れる高尾の髪を眺める。サラサラと揺れる髪が奇麗だ、なんて。
私は再び頬杖をつきながら、机の上に置いていた紙パックのジュースを手に取りストローから中の液体を流し込む。中身はバナナオレである。本当はイチゴオレが飲みたかったのだけれど、生憎売り切れになっていたので仕方なくバナナオレを購入したのだ。
それを下から見ていた高尾が「一口ちょーだい」と言うので、そのまま手渡した。


「んー、はい」
「お前、何のためらいもなく渡すよな」
「今更でしょ。何回目の間接キスだよ」


そう今更である。こんなやり取り今までに何回してきたのか分からない。第一、カウントなどしていない。中学の頃から間接キスなんて日常茶飯事で、今更恥ずかしがる理由も何もないのだから。


「はは、だよなー」


高尾は軽く笑うとやはり私同様に何のためらいもなく、ストローに口をつけジュースを飲んだ。
それを眺めながら、なんとなく思い出したことを口にする。


「そーいや、よく高尾と付き合ってんの?って聞かれる」
「ふうん…まあ、オレもよく言われっけど」
「別にさあ、付き合ってないのにねー」
「んーまあ、うん――じゃあさ、」
「?」
「付き合ってみる?」


予想外な返答が高尾から返ってきた。予想外といっても、高尾がそういうことを言うのは何も今に始まったわけではない。高尾の場合は、大体「なーんてな」と言って誤魔化すのだ。そうでない場合もあるのだけれど、誤魔化す確率の方が高い。別に、そんな高尾の性格が嫌いなわけではないけれど、こういうことは冗談で口にしてほしくないというのが本心だったりするわけで。


「え…本気?」
「本気」


即答された。一応、確認を取ってみる。


「なーんてな、って言わない?」
「言わねーよ」
「じゃあ、」
「じゃあ?」
「――つ、付き合う」
「そっちこそ、どこに付き合うの?とかここでボケねーよな?」
「ボケないよ。それともボケてほしい?」
「まっさかー」
「でしょ」
「んじゃ、まあ、よろしくなー」
「こちらこそ」


まさか、昼休みに教室にいながら、しかも、普通の会話をしながら付き合うことになるだなんて予想外だった。私達らしいといえばらしいのかもしれないけれど。
しゃがんだまま未だに私の紙パックのジュースを飲んでいる高尾を眺めていたら余鐘が鳴った。というか、一口と言ったからジュースを手渡したのに、もしかして――もしかしなくても全部飲み干してしまったのではないのだろうか?


「高尾――」
「ん、ごちそーさん」
「ああー、やっぱり!」


空になった紙パックを私に差し出してくる。受け取り振ってみるが見事に空である。


「一口って言ったじゃん…」
「わりーわりー、後でなんか奢っからさ」
「…うん」
「っと、そろそろ教室戻らねーと。んじゃ、またなー」


立ち上がり、にかっと笑みを浮かべると高尾は私の頭を軽く撫でた。なんだかくすぐったい。同時に近づいてくる高尾の顔。軽く、頬に触れる。


「!」


頬に軽くキスをされた。一瞬だったけれど、間違いない。間違えようがない。
高尾に視線を向ければ、ベランダから自分の教室に戻るのだろう背を向けて歩き出していた。去っていく高尾の後ろ姿を見ていて気が付いた。私の下敷きで煽ぎながら歩く、高尾の髪からチラチラと覗く耳が赤い。
それを見て、自分の顔も熱くなっていることに気が付いた。おそらく赤くなっている。


「やばい…暑い――てか、私の下敷き…」


付き合うことになったわけですけども、

(高尾ー、付き合うって何?)
(はあ?それさ、今更言っちゃう?)
(だって、よく分かんない…)
(あーオレもよく分かんねーけど、別に今まで通りのオレらでいんじゃねーの?)



2012 9 17
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