同じ船に乗っているから距離は近いと思っていた。何かにつけて気をかけてくれるし、風邪をひけば看病してくれるし怪我をすれば手当してくるし、クルーなのだから当たり前かもしれないけれど私はそれが嬉しかったわけで。自分が特別かもしれないと全く思っていなかったといえば嘘になる。
だから、久しぶりに立ち寄った島でローが女の人に絡まれていたのを目の当たりにして一気に距離を感じた。遠い。私のつけ入る隙なんてものはどこにもない。そりゃあ、かっこいいからモテるに決まっているけれども、あんな何人もの綺麗な女の人に絡まれているのを目の当たりした日には嫌というほどその距離を感じてしまう。私はこの距離を広げる術を知っていても縮める術を知らない。つけ入る隙なんてないのだから、私はただただ距離を広げるばかりで終いにはそこから逃げた。
なんて臆病で弱いのだろうか。自分でよく分かっている。でも、仕方ないではないかつけ入る隙などどこにもないのだから――そう自分で自分に言い聞かせて仕方ないと諦めてしまうこの思考こそが臆病なのだ。
かといってどうしていいのか分からない私は船には戻らずに海辺を歩く。思考は相変わらず悶々としたままだ。
ふと何気なく空を見上げてみれば月が出ていた。もう少しで満月なのだろう、丸に近いそれは煌々と自分を主張していた。月灯りが私を照らす。影が伸びる。黒く伸びる私の形をした影は私の心に渦巻いている黒い悶々としたものをそのまま具現化しているようで。私の全身が黒いそれに侵食されていってしまったように感じた。
私のそれにもう一つの影が重なる。その形には見覚えがありすぎた。振り向いて影の本体を確認をするまでもなく、それが誰のものかなんてすぐに分かる。


「ロー…」


無意識に吐いて出た言葉。彼の名前を口にしていた。


「何だ?」


私の独り言の様な無意識のそれに対して当たり前のように返事を返してくるローに少しだけ笑いそうになった。だけど、その笑みをぐっと堪えて何でもないような素振りをする。


「別に…何でもない」
「そうか」


何故ここにローがいるのか?真っ先に浮かんだ疑問で気になっている。私がその疑問を口にするより先にローが口を開いた。


「どこの誰かを具体的に言うわけじゃねェが、」
「?」
「変な意地張って甘えるのが下手でそのくせ構ってやらねェとどっかにふらっといっちまう困った奴がいるからなァ…だから、おれはここに来たわけだ」
「! ふ、ふうん…誰それ」
「フフ…さァな」
「ロー」
「何だ」
「やっぱり…何でもない」
「そうか」


少しだけ笑いを含んだ声色と共にローは私の頭を撫ぜた。私が広げた距離がなくなった。


私は距離を縮める術を知らないけれど、彼は距離を縮める術を知っている



2013 11 11
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