「黒子くん発見ー!」
「!」


委員会を終えた黒子が部活へ向かおうと廊下を歩いていると、聞き覚えのある声で名前を呼ばれた。足を止め、黒子は振り返る。そこには、同じクラスの一人の女子生徒が悪戯が成功した様な笑みを浮かべていた。


「あ、ビックリした?」
「はい、ビックリしました」
「やったね!いえーい」
「いえーい……って、僕は嬉しくありません」


いえーい、とピースをしてくる彼女に少し釣られ――いや、釣られたふりをしたといった方が正しいのかもしれない。黒子もピースをしかけた。しかけた、だけですぐに上げかけた手を下げてしまったけれど。それでも、彼女は満足したらしく、嬉しそうな笑みを浮かべた。


「今から部活?」
「はい」
「そっかー。私は、帰るとこだから途中まで一緒に行こー…あ、いや、行ってもいい?」
「いいですよ」


そして、二人並んで歩き出す。
何故、途中までなのかといえば、黒子が向かう体育館は昇降口を通らなければ行けない造りになっている。彼女は帰宅する予定なので、昇降口で黒子と別れることになるから、というわけだ。


「どうしてさっき言い直したんですか?」
「へ?」
「一緒に行こうと言った後で、行ってもいい?と言い直したことです」
「ああ、それは、行こうだと肯定になっちゃうでしょ?行ってもいい?って聞けば相手の意思を確認できるから。断られたら悲しいけどねー…」
「断りませんよ」
「それはよかったー」


よかったよかった、と嬉しそうに笑う彼女。思えば先ほどから嬉しそうに笑ってばかりいる。
元々、彼女はよく笑う方である。教室でも友達と楽しそうに会話をして笑っているところを黒子はよく目にしていた。明るく目立つタイプである彼女。おそらく黒子でなくとも、彼女のそういった言動は同じクラスの者ならよく目にしているだろう。
そんな彼女とは正反対のタイプの黒子。本来ならあまり関わり合うこともないかもしれない。同じクラスであるから、全く関わらないとは言い切ることは出来ない。
しかし、何故か彼女は黒子によく話しかけてくる。黒子はそれを嫌がっているわけではないが、黒子としては彼女が何故こんなにも話しかけてくるようになったのかきっかけが分からない。気がついたら毎日の様に話しかけてくる彼女がいた。


「僕と話していて楽しいですか?」
「え?うん、楽しいよ!……あ、もしかして迷惑だった?」
「いえ、迷惑じゃないですよ」
「よかったー。私話したいなって思ったらすぐ声かけちゃうから、相手に迷惑だと思われることが度々あるらしくてね…」


ははっ、と乾いた笑いを漏らす彼女。


「そう思ったことはないので安心してください」
「ありがとう。黒子くん優しいよね!見つけられてよかった」


どういう意味で彼女が「見つけられてよかった」と口にしたのか黒子は気になった。
つい先程のことだろうか、それともそれとはまた別の意味にも取れる。


「それはどういう意味ですか?」
「え?うーん、この学校に入って黒子くんに出会えてよかったみたいな?それに、ほら私黒子くんのこと見つけるの上手い方じゃない?」


そう言われてみれば確かにそうであった。
クラスで黒子の存在に気がついていない時でも彼女はよく黒子を見つけ出すのだ。見つけると、やはり嬉しそうに笑うのだ。


「言われてみればそうですね」
「でしょー…へへ」
「そんなに、僕を見つけられたことが嬉しいですか?」
「うん!出会えたことも、見つけられる確率が他の人に比べて高い方なのもね。私、三回中一回は黒子くんがどこにいても見つけられるよ」
「…でも、二回は見つけられないんですね」
「う…そ、それはそうだけど…そうだけど――これが二年生になったら三回中二回は見つけられるようになって、三年生になったら、三回中三回、絶対に黒子くんがどこにいても見つけられるようになる!」
「! そう、ですか」


少しだけムキになって言う彼女に、黒子は自然と口元が緩むのを感じた。


「だから、覚悟しとけ!」


びしっと黒子に言い放ち悪戯そうに笑う彼女に、黒子も少しだけ驚いた表情をした後につられて笑った。


三回中一回



2013 7 30

×
「#ファンタジー」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -