※現パロ



丁度、一ヶ月くらい前だった。
残業を終えて、帰宅しようと駅を出た辺りで酔っぱらいに絡まれていたところを彼に助けてもらった。それが出会い。それから妙に懐かれて今に至る。
本来なら、高校生と関わり合うことないのだけれど運命とは不思議なものである。そう彼――総悟君は高校生である。街で見かけることはあっても関わり合うことのない高校生だ。
高校生である総悟君は学校を終えて適当に時間に潰しては、私のマンションの前で私の帰りを待っている。何故、私のマンションを知っているのかといえば、酔っぱらいに助けてもらった時に家まで送ると言って譲らない総悟君に送り届けてもらったからだ。
思えば、不信感とか不快感を与えずに強引ではあったけれどすんなりと私の生活空間に入ってきたように感じる。警戒心が低いはずではないのだけれど、そこが総悟君のキャラ性なのかもしれない。
何故、こんなに懐かれてしまったのか疑問に思って、理由を尋ねたことがある。聞けば総悟君の亡くなったお姉さんに雰囲気とやらが似ているらしい。歳も私と同じくらいだったと総悟君は言っていた。
お姉さんのことを口にした時の総悟君は今までに私の前でしたことがない様な悲しそうな切なそうな表情を一瞬だけ見せた。触れてはいけないところに触れた気がして、謝れば気にしなくていいと額を小突かれた。いずれは、その話は私に話すつもりだったのだから、と。
私としても、なんだか弟が出来たみたいで総悟君と過ごすのは楽しい時間である。どうやら総悟君のクラスメイトはキャラが濃い人達が多いらしく、総悟君の話を聞いては日々笑わせてもらっている。そのせいだろうか、最近よく明るくなったと言われることが多い。しかし、そう言われると以前の私はそんなに周囲に暗い印象を与えてしまっていたのだろうか?と疑問も生まれるわけで。自分としては、そこまで暗く振舞っていたつもりはないのだけれど。至って普通に振舞っていたつもりだったのだけれど。
今日もいつもの様に、私の部屋に来て寛いでいる総悟君にその話をすれば総悟君は飄々とした顔で言い放った。


「ああ、そりゃあアンタ今まで俺の担任みてェな死んだ魚の様な目ェしてたから仕方ねェや」
「そんな目してた!?」
「してやしたぜ。実感がないだけで、初めて見た時なんざ今にも死ぬんじゃねェかってヒヤヒヤしたもんでさァ」
「……」
「冗談でさァ…本気にしねェでくだせェよ」


言いながら総悟君は私がコップに入れて出した麦茶を口にした。
そして、コップをテーブルの上に置くと、話題を変えてきた。


「そういや、アンタは知らねェと思いやすけど、今日が何の日か知ってやすかい?」
「知らないと思ってるのにそれを聞くんだね…」
「いいから答えなせェ」
「七夕後夜祭」
「……」


いいから答えろと言うから思いついたことを口にしれば、物凄くしらけた様な表情をされた。何言ってんだお前…と呆れを含んだ様な視線。笑うなら笑ってほしい。ツッコミを入れるなら入れてほしい。馬鹿にするなら馬鹿にしてほしい。とにかく無言というのが一番きつい。


「ちょ、何か言ってよ!」
「…いや、そんなこと言う奴初めてで…ぷっ」
「ちょっとお!何でそんな笑い堪えてんの!?恥ずかしい!なんか恥ずかしいから一思いに笑ってよ!」


総悟君の方に少し乗り出す勢いで言えば、宥めるように肩にぽんっと手を置かれた。


「まあ、落ち着きなせェ」
「誰のせいだあああ!!」
「さァ?」


自分は知らないとばかりに首を傾げてみせる総悟君に溜息が漏れた。
いつもおちょくられるというかからかわれてばかりの様な気がする。これでは、どちらが年上か分からない。別に私が年上だからどうとかそんなことはあまり話題に出ないし、私も気にはしないようにしているのだれど。
これは年齢の問題というよりも性格云々の問題なのだろう。それにしても、私はこんなにからかわれる様な性格だったような気はしないのだけれど、そこは総悟君相手だからということにしておこう。仕方がない。はあ、と再び軽く溜息を吐いたところで総悟君が先ほどの問いかけの答えを口にする。


「で、さっきの答えは、今日は俺の誕生日でさァ」
「え…そ、そーだったの!?」
「知らないのも当然でィ…教えてねェんだから」


ふふん、と総悟君は鼻で軽く笑った。


「そこ自慢気な顔するところじゃないと思うんだけど…まあ、うん、そうだよね。今初めて聞いたもんね…あっ、プレゼントとケーキどうしよっか?明日でも帰りに買って来るね」
「いや、それは別にいいんで…一つ約束してくれやすかい?」
「? うん、いいよ」
「来年の誕生日は、アンタから祝ってほしいんでさァ」
「え…?」
「ダメ、ですかィ?」


向い合って座っている私の顔を下から覗く様にして上目遣いで聞いてくる。その視線に、少しだけどきりとした。


「ダメじゃない…いいよ、分かった。じゃあ、来年の誕生日期待していてね?」
「当然でィ…俺の期待にそえるように頑張ってくだせェ」
「あれ?なんかハードル上がった気が…」
「気のせいだろ」
「そ、そっかー気のせいだよねー…気のせい…あははー。でも、まずは、」
「?」
「やっぱり今年は今年でお祝いしなきゃね!とりあえず今日はコンビニのケーキでお祝いしよ?」


近所のコンビニにケーキを買いに行こうと立ち上がる。驚いた様な顔をしている総悟君を立たせようと手を握り引いた。


「ほら、行くよー。誕生日は今日しかないんだから、ね?」


私に手を引かれた総悟君は大人しく立ち上がる。珍しい。普通ならここで、「一人で行って来てくだせェ」だとか「今から行くんですかィ…はあ…」等一言二言何かを言ってくるはずである。
てっきり、そうだろうと予想していたのだけれど。珍しいこともあるものだ。珍しいといえば、もう一つ。立ち上がらせようと総悟君の手を引いた時に一瞬だけ見せた少しだけ緩んだ口元、嬉しそうな表情は初めて目にした。
そして、私は決意する。来年の総悟君の誕生日にはその表情を一瞬だけではなく、更に引き出してやろうと――あれ?もしかして、またハードル上がった?


来年もまた一緒にいられるように





2013 7 13
遅くなっちゃったけれど、総悟ハピバ!
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