もし、守りたい人が同じだったのなら私達は同じ道を歩いていたのかもしれない。最初から違った道を歩いてはいなかったかもしれない。
もし、なんていくらでも言えることだけれど、いくらでも想像出来ることだけれど。実際はそうではないのだから、いくら、もし――と想像だけをしたところでどうにもならないのだ。
真選組の総悟と攘夷派である私は、決して隣を歩む日等こないのだ。



***



血痕が続いている。
それが誰のものなのかは分からない。ここがどこなのかもよく分からない。辺りは暗く、場所の特定は難しい。それでも、血痕だけは赤々とやけに明るく鮮やかさを主張している。真っ直ぐに、血痕だけがどこまでも続いている。不気味だ。
しかし、この血痕の先に何が待っているのか、私は確かめなければならない。そんな気がした。同時に、どうにもさっきから嫌な予感がする。これが胸騒ぎというものなのだろうか――じわり、と嫌な汗が手の平に浮かんでくる。ぎゅっと手に自然に力が入る。
覚悟を決めろ。何が待っていても、受け入れる覚悟を。そう言い聞かせ、一歩足を進めた。
どのくらい歩いただろうか?結構歩いた気がするが、なんせ景色が始めと変わらないので進んでいるのか最初の場所から全く進んでいないのか判断が出来ない。
はあーっとため息を一つ落とし、一瞬、瞬きをしたほんの一瞬だ。今まで血痕だけしかなかったそこがいきなり開けた場所に変わる。血痕は相変わらずのままだ。
再び血痕の続いている方へ導かれる様に進んでいく。ぐにゃり、といきなり目の前が歪んだ。


「!?」


そして、次の瞬間にはうっそうとした森の中へと景色が変わっていた。辺りを見渡してみればやはり続く血痕。景色は変わっても続く血痕だけは変わらない。そんなに私に血痕の先にある何かを見せたいのだろうか?


「  」


ふいに名前を呼ばれた気がした。
それは掠れていてとても小さい声だったけれど、確かに私の名前で、聞き覚えのある声だった。声がしたのは私の背後の方からだ。振り返り足を進める。そこにはやはり私を導くように血痕が続いていた。
少し進むと、一本の木に寄りかかって座っている誰か――いや、私はこの人物をよく知っている、嫌というほどに知っている。


「総悟!?」


血痕は総悟の元へと続いている。近寄ってみれば、座っている総悟の周りには血溜まりが出来ていた。この出血量、ぐったりと頭を落として動かない身体――死んでいる?


「…総、悟?」


ぴくり、総悟が反応した。落としていた頭がゆっくりと上がる。総悟の顔は驚くほど青白かった。こんなに顔色の悪い総悟は今までに見たことがない。総悟の瞳に私が映った。


「ははっ、情けねェや…ヘマやっちまった…」


軽く自嘲気味に笑みを浮かべると総悟は再びぐったりと頭を落として動かなくなった。





***





「――という夢をみたんだよ」


昨夜みた夢の話をひと通り総悟に話した。


「え?何か言った?」


耳からイヤホンを片方だけ外しながら、これである。私の話した内容への返しがこれである。


「ちょ、聞いてなかったのおおお!?」
「冗談でさァ。ただイヤホンしてただけで、音は出てやせん」
「何その手の込んだ演出…」
「当然だろィ。つーか、夢で勝手に殺さねェでくだせェ」
「好きでみたわけじゃないよ」
「知ってまさァ」


イヤホンをしながらもちゃんと聞いていてくれたことに少しだけほっとする。けれど、人をおちょくることにかけての彼の才能には毎度驚かされる。
本当に全く話を聞いてもらえていなかったら――そう思うと苛立つけれど残念でもある。別に、私の夢の話なんてそりゃあたいした話ではないけれど、他愛のない話くらいしたいじゃないか。お互いの立場上、そういう話をしたいと思うこと自体がおかしいのだけれど。こうして、夜中の廃れた神社で会うことだっておかしいのだけれど――そんなことはよく分かっている。お互いによく分かっていることだ。
分かっていて、お互い口には出さない。出さないようにしている。それについては一切触れない。そう決めたことではないけれど、言わなくても通じている。少なくとも私はそう思っている。
きっと、それをどちらかが破った瞬間にこの微妙な距離と関係はいとも簡単に壊れるのだろう。


「そもそも、俺を殺すのはアンタだろ?」
「うん」
「そして、アンタを殺すのは俺だ」
「そうだね」
「そう約束したはずでさァ。まさか忘れたんですかい?」
「ちゃんと、覚えてるよ」
「それまで、夢でもなんでも勝手に殺してんじゃねーよ」
「うん、ごめん…」
「……どうかしたんですかィ?」
「え、何で?」
「なんか反応がアンタらしくねェような気がして」
「そうかな…?あんな夢みたからかもね…」


それだけではない。あと何回こうしてこっそりと会って他愛のないやり取りが出来るのだろう?と、ふと頭を過ぎってしまったのだ。
確かに、総悟が言った通りに総悟を殺すのは私で私を殺すのは総悟だという約束をした。でも、これは来るべき時のことである。まだ先の話――今ではない。その時が来たら、私は総悟に刃を向ける。総悟も私に刃を向ける。そうしてお互いにお互いを殺すのだ。避けられない運命なのだと、総悟と約束をしたあの時に理解している。


「アンタを殺す機会は今まで沢山あった」
「え…」
「なのに、俺がそうしなかった理由と俺が今アンタとこうしている理由を少し考えなせェ…」
「…」
「アンタが考えているようなことを俺が今まで一度も考えたことがなかった、なんて思わねェでくだせェよ」


思わず総悟へと視線を向ける。私から顔を少しだけ背けている総悟の横顔しか見えなかったけれど、その横顔がやけに切なそうな表情をしていて、どういう言葉を紡げばいいのか分からなかった。


「なーんか辛気臭くなっちまった…こんな話は終わりでさァ。今度はこっちの話を聞きなせェ…また土方のヤローが――」


総悟の言う通りに辛気臭くなってしまった雰囲気を打ち消すように、いつもの飄々とした調子で話し始めた彼の表情にはさっきのそれはなくなっていた。見間違えたのだろうか?と思ってしまうほどにいつも通りの総悟の表情だった。


共殺

(他愛のない話が出来る関係になったところで、)
(結局のところ、私達はいつか殺し合う運命なのだ)



2013 3 24
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