春が近くまでやってきているようだ。
ぽかぽかと温かい日差し、少しずつ膨らんできた花の蕾、遠くで鳴いた春告鳥の声。ようやく暖かくなることに嬉しくも感じるが、季節が1つ変わったところで状況は何一つ変わらない。
攘夷戦争真っ只中である。日々、誰かが傷つき運が悪ければ死んでいく――この状況はいつになったら終止符が打たれるのか。そう思わない日は攘夷戦争が始まってから一度もない。明日は我が身かもしれないと、我が身でなくとも、大切な人の身にそれが起こったら――そう考えるだけで恐ろしい。
毎日頭に過る瞬間はあるものの、一日中ずっと考えているというわけではない。一日中ずっと、そんなことを考えていたら流石に気が滅入ってしまう。攘夷戦争真っ只中だとはいっても、つかの間の休息というものもある。
それが今、現在だ。今日は戦がない。各々が好きなことをしている。武器の手入れをする者、稽古をする者、普段の睡眠不足を補うかのように寝る者等々。
私はというと、拠点にしている家屋の縁側に座りぼんやりと冒頭の様に春の訪れを感じていた。何が起こるか分からないので、傍らには刀を置いているけれども、それでも、こんなにゆっくりとした時間は久々だ。ぽかぽかと温かい日差しのせいもあるが、つい気が緩んでしまう。春の陽気が眠気を誘ってきた。
眠気に勝てず、つい頭をこっくりと下げてしまい、はっとする。数回繰り返したところで、背後の障子ががらりと開いた。振り返れば、そこには寝間着姿のままの高杉の姿。どうやら、今まで眠っていたらしい。寝ぼけたような眼の高杉は黙ったまま私の隣に腰を下ろすと胡座をかいた。そして、ぼそりと一言。


「……探した」
「え?」
「…いなくなったかと思った」


少し顔を背けながらぼそりぼそり、と言う高杉が珍しい。おそらくまだ寝ぼけているのだろう。


「いなくならないよ」
「分かんねェだろ…何が起きても不思議じゃねーよ」
「まあ、うん、そうだね」
「で、お前は何してたんだ?」
「ぼうっとしてた。高杉は流石に寝過ぎだと思うよ」


とっくに昼は過ぎている。ゆっくりとはいっても流石に寝過ぎだろう――笑いを含んだ様に言えば高杉に軽く頭を小突かれた。


「うっせ…」
「いたーい」
「んな力入れてねーよ」
「うん」
「…にしても、あったけェな」
「もうすぐ春だからねー」
「もうそんな季節か…長かったな、冬」
「そうだね。長くて冷たくて寒かったね」
「ああ」
「ねえ、高杉」
「あ?」
「春になって桜が咲いたら花見に行きたいね」
「ああ」
「銀ちゃんとヅラと辰馬も誘って行きたいね」
「うるさくなりそうだな」
「そうだね。で、高杉はみんなに弄られそうだよね」
「おい、何でそうなんだよ…」
「ははっ、だっていつものお約束かなーって」
「勝手にお約束にすんじゃねーよ」
「うん」
「つーか、行きたいじゃなくて行くんだろ?計画しろよお前」
「! うん!」
「あーまた眠くなってきたな…」
「さっきまで寝てたのに?」
「ああ。お前膝かせ」
「え?」


大きく欠伸をすると、高杉は正座から少し足を崩して座っていた私の脚の上に頭を乗せてごろりと横になった。所謂、膝枕状態である。


「ちょっと、高杉、許可してないんだけど…」
「うっせー…おやすみ」


そう言って少し経つと、すうすうと気持ちよさそうな寝息が聞こえてきた。
さっきまで寝ていたくせにどれだけ眠かったのだろうか?ここまで気持ちよさそうに眠られては、無理やり起こすのは可哀想だ。仕方ないと、軽くため息を一つ落として観念した。
ふわり、と吹いてきた春風が高杉の髪をさわさわと揺らすのを見て、高杉の髪を撫でる。見上げた空は穏やかな青色だった。


駘蕩



2013 2 11

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