※裏稼業パロ



ターン!と勢い良くキーボードのエンターキーを押した。眼鏡のブリッジに手をかけくいっと位置を定位置に戻すと彼女は自慢気な笑みを浮かべる。


「ふふんー、情報は全てこの私が頂いた!」


立ち上がり、目の前のパソコンの画面に向かって喋る彼女の背後から一つの影。
その影は迷うことなく背後から彼女の頭を軽く小突いた。


「いった!」
「嘘をつくな…たいした力は入れてねェ」
「やだなー条件反射といいますか、そういうのですよう。痛くなくても、いきなり背後からの攻撃で驚いてつい言っちゃうあれですよ。あと、十パーセントくらいのノリで」
「色々突っ込みたいところはあるが、おれはお前に攻撃した覚えはねェぞ」
「そりゃあローさんはそのつもりでも、元々のヒットポイントがローさんと比べて半分以下のか弱い私にしたら攻撃になるんですよう」
「そうか…」
「ああー何ですか!?その突っ込み疲れたみたいなリアクションは?」
「…お前はあれだ、少し黙れ。無駄話をするつもりで来たんじゃねェよ。仕事は済んだのか?」
「! ふふん、勿論ですよ!たった今終わったところです」


ヘラヘラと会話していたのが嘘の様に、真面目な表情になると彼女はキーボードを巧みな指さばきで叩いていく。
次々と画面に映し出されていく地図や写真や文章。
彼女はそれらについて、ローに説明していく。先ほどまでのふざけた会話とは全く違う。ローもそれを頷きながら、時には質問をしながら会話をしている。
何についての話なのかといえば、仕事の話である。
ローは所謂何でも屋の様なことをしている。その傍らで表の医者にかかれない様な怪我をした人間を相手に闇医者の仕事もしていた。最も、後者のそれはローの気まぐれが多いので、気に食わない患者には一切手をかけないことが多い。
彼女はそんなローの元でハッカーとしての腕を買われ雇われている。彼女の手にかかれば、どんな情報も入手可能だ。彼女曰く、情報戦で私に敵う奴はいないらしい。その自信が一体どこからやってくるものなのかは分からないが、彼女の言う通りにローは彼女に情報戦で勝った者は見たことがなかった。
情報戦で無敵という強さを誇っている彼女だが、勿論弱点も存在する。弱点がない人間等いないのだ。彼女の弱点は、彼女が先ほど言った様にヒットポイント――体力の無さである。体力面では最弱を発揮する彼女だ。戦闘面では全く使いものにならない。寧ろ足手まといである。ローもそれをよく分かっているので、彼女には情報面の仕事しか頼まないのだ。


「――以上で説明終わりでっす!」


びしっと敬礼を決め、説明が終わった瞬間にゆるい雰囲気を醸し出す彼女。なんとも不思議である。


「これらのファイルはどうします?USBに移しますか?」
「いや、いい。覚えた」
「流石ローさんですねえ!今の説明で全部覚えちゃうなんてすごいですよう」
「お前も同じ部類だろう」
「えっへへー、そんなことないですよう!じゃあ、残骸も残らないように削除しちゃいますねー。レッツデリート!」


彼女は掛け声と共にデリートキーを押して膨大な量のファイルを次々に削除していく。


「おい、」
「はーい、何ですかー?」


画面に目を向けたままローの呼びかけに返事をする。


「この後時間あるか?」
「この後ですかー…うーん、誠に申し訳ないんですけど、この後はポチたんと遊ばないと…」
「は?」
「だからポチたんですよう!」
「何だそれは?」
「んー、ペットですよう。所謂、電子ペットっていうやつです。私のディスクトップに住んでいて私の仕事の終わりを待ってるんです!」


全てのファイルを削除し終えた彼女は、ごちゃごちゃと重なっている書類をどける。書類の下には一台のノートパソコンが置いてあった。
彼女はそのノートパソコンを手にするとニヤニヤとした笑みを浮かべた。


「むふふー、これがポチたん専用の端末です!この中で私のことを健気に待ってるんですよう」
「…」
「だから、この後の時間はないです」


ローは呆れすぎて何を言ったものかと額に手を置き深い溜息を一つ吐いた。


「…お前に、一つ教えておいてやる」
「何ですかー?」
「こういう時の雇い主の誘いには素直に従うもんだ」
「大事な用事があってもですか?」
「そうだ」
「むうー、そういうものなんですか…ううーん、社会は厳しいですねえ…」


眉間に皺を寄せ少し考える素振りを見せる彼女。


「分かりました。いいですよう…時間、あります」


完璧に納得したというわけではないのだろう、若干頬を膨らませながらも彼女は了承した。そんな彼女を見てローは満足気に口角を上げた。


おそらく彼女は誘いの意味を理解していない



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