今日も私は彼のいるホテルへと赴く。
いつもと違うのは、荷物が多いことだ。紙袋が二つ。何が入っているのかといえば、片方には誕生日ケーキ、もう片方は彼への誕生日プレゼントだ。
そう今日は彼の誕生日だ。きっと本人は忘れてしまっているだろう誕生日を盛大に祝って差し上げようと、予めケーキ屋に行って誕生日ケーキを予約しておき、高級ブランド店へ行き彼に似合いそうなスカーフをプレゼントに選んでおいたのだ。
鼻歌交じりに彼の部屋へと足を踏み入れれば、いつもどおりにソファーに座り本を読んでいる後ろ姿が目に入った。
きっともう私が勝手にここに来ることに慣れてしまっているのだろう彼は、私が入って来たことに気付いているはずなのだが何の反応も示さない。
背後から驚かしてみようかと少しだけ悪戯心が疼いたが、怒られそうなので我慢することにした。
彼の座っているソファーの向かい側へ回り、ソファーとソファーの間にあるテーブルへと紙袋を二つ並べる。
並べられたそれに彼は訝しげな視線を私へと寄越した。それをにっこりと笑顔で受け流すと今日という日に相応しい言葉を口にする。

「クロコダイルさん誕生日おめでとうございます!」

驚いた様な表情をした彼を見て、私は満足気に口角を上げる。

「おや?何で誕生日を知ってるんだ?って顔ですね。私を誰だとお思いですか?情報屋ですよ」
「……」
「無反応ですか。まあ、いいですけどね。あ、プレゼントもあるんですよ、どうぞ」

テーブルの上に置いた紙袋の中から、ケーキが入っている箱を取り出す。箱の中からケーキを取り出してテーブルの上に置いた。
ケーキは、甘さ控えめに作ってもらったチョコレートケーキだ。その上には、ハッピーバースデーと文字が書かれたチョコレートが乗っている。せっかくの誕生日だからと、ケーキ屋に依頼をしてわざわざ乗せてもらったのだ。

「じゃーん、バースデーケーキです!」

彼はそれを一瞥すると、溜息を吐く様に吸っていた葉巻の煙を吐き出した。

「ガキか……」
「ええーいいじゃないですか。誕生日なんですからお祝いしなきゃですよ」
「お前が食いてェだけだろうが」
「あ、やっぱりバレました?えへへ」
「……」
「ささ、こっちも開けてみてください」

もう片方の紙袋の中から包装紙で包んであるプレゼントを彼に手渡す。
彼はそれをビリビリと破いていく。綺麗な包装紙だったのに勿体ないと思ったが、敢えてそれは口にはしなかった。
包装紙の中身はスカーフだ。彼はよくスカーフをつけることが多い。きっとスカーフなら気に入ってくれるのではないかと思い、高級ブランド店で色々吟味した結果、彼に似合いそうな深緑色のペイズリー柄のお洒落なものを選んだのだ。勿論、素材はシルクだ。

「どうです?なかなかいいセンスしてると思いません?」
「……ああ、悪くねェ」

そう言って満足そうに口角を上げる。
素直に喜ぶとは思ってなかったが、悪くないと口にする辺りどうやら喜んではいてくれている様だ。
よかったと安心したところで、もう一つ彼に伝えようと思っていたことを思い出した。

「あっ!重要なことを言うの忘れてました」
「何だ?」
「あのですね……丁度三ヶ月後、なんと私の誕生日なんですよ。なので、よろしくお願いしますね」
「…………知るか」
「何でですかー!意地悪!」

ぎゃあぎゃあと抗議する私に目もくれず、彼は手に持ったスカーフに夢中の様だった。
翌日、彼の元を訪れるとさっそくプレゼントしたスカーフをつけてくれていた。
どうやら気に入ってくれたらしい。色々と吟味して選んだ甲斐あって、気に入ってもらえたのなら私も嬉しい。自然と口元が緩んだ。


2019/09/09
×
第3回BLove小説・漫画コンテスト結果発表!
テーマ「人外ファンタジー」
- ナノ -