元王下七武海、アラバスタでの暗躍、インペルダウンからの脱走、マリンフォードでの一件等で随分と悪名高い彼の情報を求めてくる客は多い。
こちらとしてもそんなに悪名高い彼の情報を売るからには、それ相応の金額でなければ売れない。数十万ベリーでの取引なんて持ちかけてくる客にはお帰りいただいている。
客の欲しがる情報は、様々だが多いのが現在の彼の所在だ。
所在を知って何をしでかすつもりかまでは知らないが、そんな客達に彼なら私と一緒に行動していますよ、なんて教えてやったらどんな反応をするのか興味がないわけではない。
ましてや今回の客は、彼の情報に三百万ベリーを出すと言ってきている。この間の数十万ベリーで情報を求めてきた客とは違う。
だからこうして、彼に彼の情報を売ってもいいか確認に来ている。
こちらも商売で情報を取り扱っているのだから、客が三百万ベリーを出すというのなら彼の返答は分かっているが念のため確認はする。

「クロコダイルさんお話があります」

彼はソファーに座り、読んでいた新聞から視線を向かい側のソファーへ座っている私へと向けた。

「何だ?」
「クロコダイルさんの情報が欲しいっていうお客がいるんですけど、売ってもいいですか?」
「……」

睨まれた。
回答は、ノーという意味だ。予想どおりだ。あなたの情報を売っていいかと聞かれてイエスと答える人間はいない。

「やっぱりダメですよねー」
「分かってるなら確認する必要はねェだろう」
「そうなんですけどね、そのお客の提示してきた金額がよかったので一応……」
「……いくらだ?」
「三百万ベリーです」

暫しの沈黙。
ホテルの最上階のスイートルームがしんっとした静寂に包まれる。

「…………六百万ベリーだ」
「はい?」
「六百万ベリーやるからそいつにおれの情報は売るな」
「分かりました」
「随分と素直じゃねェか」
「えへへ、そりゃお客の提示額の倍くれるっていうんですもん。素直になりますよ」

まさか客の提示額の倍を出すという返答が貰えるとは予想外だった。
もしもこの後、その客に彼の情報は六百万ベリー以上ではないと売れないと言ったとする。ならば六百万ベリーより多い額を出すからどうしても彼の情報を売ってほしいと言ってきたとしよう。
その場合に私はどうするか?答えは、彼の情報は売らない、だ。
情報屋は情報を求めてくる客が、それに見合った金額を払ってくれるのならばその客がどんなにクズだったとしても平等に情報を提供する。贔屓はしない。
けれど、私は贔屓をする。何故なら、彼と行動を共にする様になってそこに情が生まれてしまったからだ。私は情も情けもない人間ではない。
先に言った様に、彼は私と行動を共にしていますよと教えた時の反応に興味がないわけではないが、その好奇心のために情を捨てるほど愚かではない。金よりも取らなければならない方の見極めは出来る。
他の人間にはしない贔屓を彼にするのは、情報屋である私なりの特別サービスだ。

「名前」
「はい」
「今後もおれの情報が欲しい奴が来ても売るんじゃねェぞ。金なら出す」

彼は真っ直ぐに私を見てそう言った。

「はーい」

満足気に私が返事をしたのを見ると、彼は再び新聞へと視線を戻した。


2019/08/19
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