※映画(STAMPEDE)ネタあり
祭り前の情報収集の続き


危ない目に遭いたくなかったら目の届く範囲にいろと言ったのは彼だったはずではないか。
言われたとおりに彼の目の届く範囲にいたというのに、歩くのが早すぎる彼のスピードについていけず気付いた時には置いていかれてしまっていた。
置いていかれてしまったのなら仕方がないと開き直った私は、私がここ海賊万博に来た目的である情報を集めることにした。何やら怪しげな四人組の男を見つけこっそりと後をつけた。
四人組は裏路地へと入って行く。少し進んだ角のところで、四人組が何やら取引を始めようとした瞬間に、足元に落ちていたガラス片を踏んでしまった。
パキリ、とガラスが割れた音が賑やかなメイン会場とは逆に静かな裏路地へと響く。それを聞き逃すはずのない四人組に見つかってしまった私は全速力で逃げた。走って走って走って逃げた。
逃げた、はずなのだが曲がった先はなんと行き止まりだったのである。引き返そうしたところでもう遅い。四人組が逃げ道を塞いでいた。
完全に追い詰められてしまった。
目の前には四人組、背後には壁。逃げ道はない。絶望的な状況である。
目の前の四人組は下卑た笑みを浮かべながら、じりじりとこちらとの距離を詰めてくる。私は少しずつ後ろへと下がる。
この場を切り抜けるためには武器がいる。一歩ずつ後ろに下がりながら、腰につけていると思っていたホルスターへと手を伸ばしたが、そこに目当ての拳銃はなかった。ホテルで着替えた時に、ホルスターごと外してきてしまっていたことを思い出した。
ならば何か武器になりそうならものはないかと、周囲へと視線を走らせるが生憎とそんなものは見当たらない。
とんっと、背中が壁に当たる。さっと血の気が引いていく。
もうダメだと思った瞬間だった、四人組の背後に砂が舞い始めた。

「え?」

それはどんどん質量を増していき、よく見慣れた姿へと形を変えていく。
四人組が彼の登場に気付いた時には既に遅く、あっという間に彼は四人組を干からびたミイラ姿へと変えてしまった。

「おれの目の届く範囲にいろと言ったはずだ」
「だ、だって、クロコダイルさん歩くの早すぎじゃないですか!?あれじゃあ、追いつけませんよ!」
「……」

無言で睨まれた。

「……うっ。ごめんなさい……そして、助けてくれてありがとうございます」
「最初から素直にそう言やいいだろうが。いくぞ」
「はーい」

彼の後を追いかける。
隣に並んで歩くと、心なしか歩くスピードが遅くなっている気がした。私からすればそれでもまだ早い方なのだが、置いていかれた時に比べればまだマシだ。
助けに来てくれたことにも嬉しかったが、私の言ったことを気にかけてくれていることに自然と頬が緩んでいく。

「で、何でお前はあんな場所で雑魚共に絡まれてたんだ?」
「あーそれはですね……」

素直に一連の出来事を話すと、彼は呆れた様にに溜息を漏らした。

「馬鹿か……」
「……返す言葉もございません」

がっくりと頭を落とした瞬間、何かが爆発したかの様な轟音と続けて大きな衝撃が走った。
思わず足を止めて音のした方へ視線を向ければ、裏路地の隙間から先程までノックアップストリームが押し上げていた島がバラバラに砕けて落下してきていた。

「はあー!?な、なな何ですかあれェ!?」
「始まったか……」
「始まったってまさか……」
「ああ。おい名前、ダズと合流してこの島から脱出する手筈を整えておけ」
「えっ、あっはい!了解です」

慌てて返事をした。
クロコダイルさんは?と続けようとした時には既に彼の姿はそこにはなかった。残っていたのは、彼のいた場所に微量に舞う砂のみ。
一人取り残された私は、まずはダズさんを探さなければと混乱で人々が溢れている渦中へと足を進めた。


2019/08/11
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