手渡された高級そうな紙袋に入っていたこれまた高級そうな箱の中には、やはり高級そうな万年筆がその存在感を主張していた。
名前は高級そうな万年筆を前に、クロコダイルに唐突にそれを渡されたことに心当たりがないため、不思議そうに首を傾げていた。
名前は、察しが悪い人間ではない。察しがつくようなことを口にすれば意図を理解するだろう。

「この前、そろそろペンを買い替えたいと言っていただろう」
「覚えててくれたんですか!?ありがとうございます」
「……」
「大事に使わせていただきますね!」

情報屋である名前は、職業柄ペンは必須アイテムである。
現在、使用している物は長年使い込んでいるためかなり劣化し書きづらくなっていた。それ故に、先週買い替えようかなと何気なく漏らしていた。それをクロコダイルが覚えていて、翌週に上質な万年筆を手渡されるとは名前は予想外だった。不意をつかれたクロコダイルからの贈り物が名前は純粋に嬉しい。その嬉しさを隠そうともせず、にこにことした笑みを浮かべている。
だが、それだけだ。普段の名前であれば既に万年筆の意味に気づくはずだが、今日はとことん察しが悪いようである。はっきりと口にしなければ今日の名前は万年筆がどのような意味を持った贈り物であるかを理解しないだろう。

「おい、今日が誕生日だと散々言ってたのはどこのどいつだ?」

クロコダイルが諦めたように呆れを含んだように言えば、名前は一瞬驚いたように目を大きくした。

「……えっ?あっああー!今日!?」

今日が自分の誕生日であると、クロコダイルにしつこいくらいに一ヶ月程前から主張をしていたというのに、当の本人の頭からはすっかりと抜け落ちてしまっていたらしい。

「えっと、じゃあ、つまりこの万年筆は誕生日プレゼントですよね?」
「不服か?」
「まさか!すごく嬉しいです!ふふ、ありがとうございます」

目を細めて嬉しそうに笑う名前につられ、自然と上がりそうになる口角を誤魔化すようにクロコダイルは咥えていた葉巻を手に取り紫煙を吐き出した。


2023/05/22
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