連日降り続いている雨はまだ止む気配はない。
現在、拠点にしているとある島のとある街は特に雨が多い地域ということもないはずだが、この場所に来た夕方から降り始めた雨は未だにしとしとと地面を濡らし続けていた。
雨が降っていようが情報屋である名前にとっては何の問題もないが、行動を共にしているクロコダイルにとっては問題である。
クロコダイルの能力は水に弱い。わざわざ雨の中、進んで出かけて行くような真似は忌避したい。どうしても出かける必要がある場合は仕方がないが、この街での用にその必要はなかった。雨が止んでからで十分に構わない。が、その雨が止まないのだ。
結果、ホテルに引きこもり雨が止むのを待ち続けているのが今の状況である。引きこもっているからといって、ただ時間を無駄にしているわけではない。その間に出来ることは、全て完遂している。
端的に言えば、現在は暇を持て余していた。比例してクロコダイルが葉巻を消費するペースが普段よりも早くなっている。残りが数本となったところでダズが自ら買いに出かけて行った。

「雨、止みませんねー」

ホテルの一室で窓際に立ち外を眺めながら、名前がこの街に来てから何度目か分からない独り言を漏らした。
分厚い灰色の雲に覆われた空は既に見慣れたものとなってしまっている。変わり映えのしない窓から見える風景には流石に飽きてきた。
何か面白いことはないだろうか、と思考を巡らせること数秒、名前は閃いたように背後のソファーに座り葉巻を吸っているクロコダイルの方へと振り返った。

「クロコダイルさん、賭けをしませんか?」
「……賭け?」
「はい!あと三十分以内にダズさんが帰ってくるか来ないか」
「……」
「どうです?どっちに賭けます?」

クロコダイルは、名前のギャンブルのやり方をよく熟知している。
名前はターゲットにする相手は勿論、ゲームの内容その全てにおいて徹底的に調べあげ、確実に自分が勝つ勝負しかしない。今までクロコダイルが見てきた中で例外はなかった。暇潰しに持ちかけてきたゲームだとしても、名前の得意げな表情を見るに例外はないのだろう。

「そういうことか……」

察しがついたクロコダイルの一言に名前はわざとらしく首を傾げて見せた。

「お前、この街でこれが売っている場所は全て調査済みだろ?」

クロコダイルが愛用している葉巻の銘柄はどこでも売っているものではない。
今いる街でそれを取り合っている店舗は一箇所だけである。名前はクロコダイルの言うとおりに、その一箇所がどこにあるのかはこの街に着いた翌日には調べ上げていた。
ちなみに、葉巻を買いに出かけて行ったダズはその店舗がこの街のどこにあるのかは知らない。知っているのなら教えてもよさそうなものなのだが、名前は情報屋である。その時々において、価値がある情報を親切心で教えるつもりは毛頭ない。もちろん、情報を求められそれに見合った金額を支払うというのならば提供はする。今回はそれもなかった。
まあ、言い訳がましく理由を並べてはみるが、名前の正直な想いは簡潔である。クロコダイルと二人きりで過ごす時間が長く欲しかった、という完全なる私情だ。

「あっバレちゃいました?」

クロコダイルに見破られた名前はあっけらかんと言い放つ。悪びれる様子も微塵もない。
まるで、こうなることを分かっていたかのように楽しそうな笑みを浮かべている。

「おれをカモにすんじゃねェよ」
「本気でお金を取る気はないですって。少しはこの暇な時間を楽しめるかなーって思ったんです」

再び名前は思案する。
会話をしていない沈黙が気まずいという理由から何か話題を探しているわけではない。先述のとおりに、クロコダイル同様名前もしなければいけないことは全て完遂してしまっている。純粋にクロコダイルと過ごす暇潰しを探しているのだ。

「あっ」

何かを思いついたような名前の声に、クロコダイルが視線だけで次を促した。

「晴れ乞いでもしてみます?雨乞いの逆で、土地によってはするところもあるって聞いたことありますよ」

本気で言っているわけではない。
昔読んだ文献に載っていたことを思い出して、そのまま口にしてみただけである。

「そりゃあ誰に乞うんだ?」
「誰って……やっぱり神様じゃないですか?」
「ハッ……くだらねェな。だいたい神なんざお前信じてんのか?」
「まっさかー!信じてたら情報屋やってませんよ」
「違いねェ」
「え、クロコダイルさんは信じてるんですか?」
「おれがそう見えるのか?」
「見えないですね!」

その後も、他愛のない会話は話題を変えどこまでも続いていく。
相変わらず、雨は止む気配がない。暇を持て余していることにも変わりはない。普段よりも、ゆっくりと進んでいく時間の中、クロコダイルと過ごすこの空間が少しでも長く続けばいいのに、と名前は思った。


2023/02/05
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