名前はベッドに横になっていた。
額に冷やしたタオルを乗せているが、名前の熱で既に温かくなってきている。
昨夜から、体調を崩していた名前を医者に診せれば疲労が原因だという。
思い当たる節はある。ここ最近の名前は、クロコダイルからの依頼とそれ以外の依頼を休みなくこなしていた。それ自体はいつもと変わらないが、いつもと比較し依頼の数が多かったのだ。連日朝方まで起きていることが多々あった。
それでも、本人は平気そうに振る舞っていたが、身体には堪えていたようだ。
名前は身体が強いわけではない。クロコダイルから見れば最弱の部類に入る。悪魔の実の能力を使うまでもなく殺そうとすればすぐに殺せるだろう。
しかし、そんな身体的に最弱の人間が情報を操作し故郷を破壊した海賊とそれを見逃した海軍大佐をぶつけ潰し合せることで見事に復讐をやり遂げている。復讐のためとはいえ誰しもが名前の方法で復讐をやり遂げられるわけではない。おそらく名前は元々そういうことに向いていたのだろう。
クロコダイルも名前の情報屋としての能力を高く評価している。でなければ、新世界に入る前にわざわざ勧誘をしには行っていない。

「クロコダイルさん……」

ベッドサイドに置いた椅子に座っているクロコダイルは弱々しい名前の声に呼ばれた。

「依頼は今朝お渡しした書面で全てですので……」

昨夜から体調を崩していたにも関わらず、朝起きてきた名前はふらつきながらもクロコダイルに依頼されていたとある組織の情報をまとめた書面を渡してきた。
大人しく寝ろと昨晩クロコダイルは名前に言ったはずだったが、それは受け入れられず依頼を完遂させたのだ。
名前から受け取った書面に目を通せば、いつもどおりにクロコダイルが必要としている情報が分かりやすくまとめられていた。とても具合が悪い状態の人間が行った仕事とは思えないそれは、情報屋としての名前のプライドなのだろう。

「あと、ごめんなさい……次の依頼があったら明日にしてもらってもいいですか?」

どうやら名前は、疲労が原因で寝込んでいる状態でも更に依頼されると思っているようだ。
クロコダイルとてそこまで鬼ではない。寝込んでいる名前をこき使う気はさらさらない。無理をさせて、万が一のことがあってもらっては今後に困る。
そして、医者から何と言われたのかを寝込んでいる本人からすっかり抜け落ちてしまっていることにクロコダイルは呆れていた。

「名前、お前は医者に最低三日は大人しくしていろと言われたはずだ」

クロコダイルに指摘をされ、名前はあっと軽く声を漏らした。やはり忘れていたらしい。
情報屋の仕事に対しては抜かりがないくせに、こういうところは抜けてしまっている名前にクロコダイルは思わず溜息を落とした。

「大人しく寝てろ」
「はい……。あの、クロコダイルさん」
「今度はなんだ?」
「……側にいてほしいですって言ったらいてくれますか?」

名前の瞳は熱のせいでぼんやりしてる。先程よりも熱が上がっているのか頬が赤くなっているようにも見えた。

「仕方ねェ……寝るまではいてやる」
「え……?それだと寝れないじゃないですか……」

熱があるせいで通常より頭は回らないはずだが、何故妙なところに気がつくのか。

「馬鹿言ってねェでさっさと寝ろ」

クロコダイルが強めに言うと名前は何かを言いかけたが諦めたように目を閉じた。
それから少しの間、クロコダイルは側にいたが名前が起きる気配はない。眠りに落ちたようだ。処方された薬を飲んでいる名前は暫くは目を覚さないだろう。
クロコダイルは名前が眠ったことを見届けると、音を立てないように名前の部屋を後にした。自身の部屋へと戻り、デスクで名前から渡された書類に再び目を通しながら資金集めの計画を立て始めた。
が、どうにも集中が出来ない。こんなに早く名前は目覚めないはずだが、もし起きれば情報屋の仕事をし始めるのではないだろうか。大人しくしていろと釘を刺したものの、まだクロコダイル以外からの依頼が残っているからと無理をする可能性がないわけではない。
クロコダイルは軽く舌打ちを漏らすと、名前の部屋を再び訪れる。クロコダイルのそれは杞憂だったようで、名前は先程と同様にベッドで眠り続けていた。
ただ先刻クロコダイルが部屋を後にする前とは違い、名前は眠ってはいるが熱のせいで魘されていた。荒い呼吸と時折苦しそうな声が漏れる。
クロコダイルはベッドサイドに腰掛けると、名前の頬へ手の甲で触れた。触れた頬は予想以上に熱を帯びている。薬を飲んでも下がる気配のない熱に、クロコダイル本人は無意識なのだろうが眉間の皺が深くなった。
結局、資金集めの計画立案に手がつかなくなってしまったクロコダイルは何度か葉巻を吸いに別室へ移動したが、名前が目が覚めるまで側にいることになる。


2022/09/30
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