詳細は教えてもらえなかった。
とある人物が参加するパーティに行くから付き合えとだけ言われた。
勿論、私に拒否権はない。パーティといえば、情報収集をするにはもってこいの場でもあるので、断る理由は見当たらない。それを分かっていて、彼はパーティに付き合えと言ってきたのかもしれない。
パーティ向きの格好に着替えて、会場へと向かうべく彼の隣を歩く。黒のスーツに着替えて、いつも以上にかっちりとした格好をしている彼は素直にかっこいいと思う。
しかし、ふわりと彼から香ってきた匂いに違和感を覚える。

「あれ?」

思わず声に出してしまった私に、彼は何だ?と視線だけを寄越した。

「クロコダイルさん、いつもと香り変えました?」

予想外な質問だったのか彼は不思議そうな表情を浮かべている。
気が付けば長いこと彼の側にいるので、自然と彼の匂いは覚えてしまっている。
いつも葉巻を吸っている割には、側にいて彼からする匂いは意外なことに爽やかでいて甘い様な深みのある香り、言うならばすごくいい香りがするのだ。
すっかりとその香りに慣れてしまった私は、その香りが好きになってしまっている。何よりすごく落ち着く香りになっていた。
けれど、今日彼からする香りはいつものそれではなく初めて嗅ぐ香りだった。まさかとは思うが、どこかの女の香水の香りだったり、と嫌な想像をしてしまう。

「あァ、確かにいつもと違うのをつけちゃいるが、お前が考えてる様なことはありえねェと言っておく」
「えっ!?分かるんですか?」
「言うまでもなく、くだらねェことを考えてるってことはな」

葉巻の煙を吐き出しながら、私を見下ろすその瞳に全てを見透かされている様で思わず目を逸らした。

「……私が考えてる様なことがないならいいです」

彼が、嘘をついているという可能性もある。
嘘なんていくらでもつくことは出来る。今まで誰かを騙して利用して見限って捨てる、そういうことを何度もやってきた人なのだからその可能性の方が高い。
それなのに、私は彼の言葉をすんなりと信じてしまう。彼がそう言うのならきっとそうなのだろうと信じてしまうのは、彼は私が傷付く様な嘘を私についたことがないからだ。

「でも、私はいつもの香りの方が好きです」
「……そうか」

それきり彼は言葉を発しなかった。
お互いに無言のまま歩いていたら、いつの間にかパーティ会場へと着いていた。

「面倒ごとに巻き込まれるんじゃねェぞ」

パーティ会場へ入る直前に、念を押される。
元気よく返事をして、彼とパーティ会場へと足を踏み入れた。

後日談その一、結局私は彼の言う面倒ごとにパーティ会場で巻き込まれることになり、彼に助けてもらうことになった。
後日談その二、あれ以来彼は私が好きだと言ったいつもの香り以外の香りをつけることがなくなった。


2020/02/16
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