自分の身くらい自分で守れるようになれと半ば無理矢理に射撃場に連れて来られている。
他の客に私が撃った弾が当たるかもしれないからと彼は意地悪そうに言いながら、今日一日射撃場を貸し切りにした。
今、この射撃場にいるのは彼とダズさんと私しかいない。広い射撃場に三人だけというのは随分と物寂しい。
離れたところにある的を狙って拳銃を構える。構え方がおかしいやらなってないとさっき散々彼に扱かれたので、今の私は構え方だけは決まっていると思う。
ぐっとトリガーにかけている指に力を込めて弾を撃つ。パンっという乾いた音と何かに跳ね返る音と何かに命中した鈍い音が聞こえた。
的に当たった時の音にしてはおかしいと思い首を傾げていると、彼のいつもより数段低い低音が背後から私にかけられる。

「おい名前……どこ狙ってやがる?」

嫌な予感がして、恐る恐る振り返ると彼の丁度脇腹辺りがさらさらと砂になっていた。

「ひっ……!?」
「天井に当たって床で跳ね返って社長に命中したぞ……。一体どうやったらそうなるんだ?」

ダズさんが顔を引攣らせながら説明してくれた。

「ご、ごめんなさいクロコダイルさん!わざとじゃないんです!私にも何故そうなったのか分かりません……!」
「チッ……お前が下手クソなのは分かり切っちゃいたがここまで酷いとはな……」
「……すみません」
「続けろ」
「はい……」

再び的に向き直って同じ様に残りの弾も撃った。
しかし、悲しいことに全弾的には掠りもせずに彼に当たったりダズさんに当たったり天井に当たったりと予想外な方向へ飛んでいってしまう。
次は武器を変えてナイフの扱い方を教えてもらった。教えられたとおりにやっているはずであるのに、ナイフは私の手をすっぽ抜けて壁へと突き刺ささること数十回。
その次は、手榴弾なら投げるだけだろうと扱い方を教えてもらった。本物をここで投げるわけにもいかないので、同じ様なサイズのボールを狙ったところに投げてみろと言われ思いっきり投げた。狙いは、数メートル先の箱の中だ。私が投げたボールはほぼ目の前の床に叩きつけられる様にバウンドすると天井に当たり、スピードが乗ったそれは私の頬へと見事に命中した。

「いったい!何で!?」

痛む頬を押さえながら叫ぶ様に声を上げれば、二人から呆れを通り越した様な視線が返ってきた。まだ笑ってくれた方がマシだ。

「そりゃこっちの台詞だ……」

彼は溜息と同時に葉巻の煙を吐き出すと、もういいと一言。

「……」
「お前に戦闘センスがねェのはよく分かった。これ以上は無意味だ」
「……おっしゃるとおりです」
「お前はいつもどおりでいい。面倒ごとに巻き込まれたらおれを呼べ」
「……え?」

予想外な彼の言葉に思わず呆けた声を漏してしまう。

「何だ?」
「いえ、別に……クロコダイルさん優しいなーと思いまして」
「あァ?」

ぎろりと睨まれた。
きっと他の人ならば怖がって逃げてしまうくらいには顔が怖い。
けれど、本当に苛ついている時の睨み方はこれの比ではないことを私は知っている。
今の睨み方はどちらかというとそう照れ隠し的な要素が強い様に思う。本人には口が裂けても言えないが。

「片付けておけ」

そう言って彼は射撃場を後にしてしまった。
残されたダズさんと私で辺りに散乱している銃弾や武器等を片付ける。

「お前……あれでよく今日まで生きてこられたな……」
「え?ああ、それはですね……運だけはいいみたいで逃げてる途中で知り合いに偶然会ったりして助けてもらったりすること数えられないくらいって感じですかね」

あはは、と笑いながら口にするとダズさんから信じられないものを見る様な視線が返ってきた。


2019/11/04
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