※学生時代


寮の共有スペースにあるソファーに座って読書をしていたら、いつの間にか向かい側のソファーに彼女が座っていた。
読書に夢中になっていて彼女が来たことに気付かなかったことに驚いてしまう。
向かい側に座っている彼女は、持参してきた携帯ゲーム機に夢中になっている。難しそうな表情をしているから、どんなゲームをプレイしているのかは分からないが苦戦しているらしいことは見て取れる。声はかけない方がよさそうだ、と再び本へと視線を戻した。
お互いに好きなことに没頭してどのくらい時間が経過したかは分からないが、彼女がうとうとと船を漕ぎ出しているのが視界に散らつき出したところで本から顔を上げた。
あと数回彼女がこっくりと身体を前後に揺らしたら、彼女の手から携帯ゲーム機は滑り落ちてしまうだろう。

「名前」
「……」

反応がない。

「名前」
「……ん?んー……はーい」

眠そうな声を上げる。精一杯目を開けているつもりなのだろうが全然開いているようには見えなかった。

「ゲーム機、落ちそうになってますよ」
「あー……うん」

ゆっくりとした動きで携帯ゲーム機をテーブルの上に置くと、彼女は丸くなるようにしてソファーの上に横になってしまった。

「寝るなら自室へ」
「……うん」

返事だけして全く動く気配がない。

「名前」
「うん、戻る……」

ゆっくりと上体が起き上がる。

「もど……あー……」

起き上がっていた彼女の上半身がソファーに沈み込んだ。

「え?」
「……無理」
「諦めないでください」
「眠い……」
「起きてください」
「動けない……ここがいい……」
「……」
「あー……ナナミンがいるとなんか安心する……」

すうっとすぐに気持ち良さそうな寝息に変わる。
何度か名前を呼んでみたが全く反応がない。完全に眠ってしまった彼女に呆れ果ててしまう。
この人はどうして無防備な姿を晒しながら、平然と私がいると安心するなど本人の目の前で口に出来るのか。あまり安心されても困ってしまう。そう、困るのだが彼女にそういう風に思われていることに対して、少なからず嬉しいと感じてしまう自分がいるのも認めざる得ない。
それに、好意を寄せている相手が目の前で無防備にしていて、全く意識しない男子高生がいると思っているのだろうか。いや、彼女はきっと何も考えていないに違いない。
それとも、あえて彼女は私がいると安心すると口にすることでこちらを牽制しているのだろうか?と思いかけたが、嘘がつけない彼女にはそういう魂胆はなさそうだ。
というこちらの葛藤など露ほども知らずに彼女は気持ち良さそうに眠っている。
自然と溜息が一つ漏れた。

「全くアナタという人は……」

向かい側のソファーで眠っている彼女の側に行くと、着ていた制服の上着を脱いで彼女の脚を隠すようにかけた。
何故なら、私の座っていた位置からは彼女の制服のスカートの中は見えなかったが、角度によっては見えるかもしれないからだ。
丁度、共有スペースの入口からソファーに向かってくる辺りからは特に。いくら制服のスカートの中にショートパンツを履いているにしても、もう少し気をつけてほしいものである。
誤解のないように言っておくが、以前彼女がスカートの中にショートパンツを履いているから平気だと家入さんに話しながらスカートを捲り上げているところに遭遇してしまったことがあるのだ。だから知っている。そこに予期せず出会してしまった私の気まずさを考えてみてほしい。
再び自然と漏れる溜息を一つ落とし、私は元々座っていた場所へと戻って腰かけた。
この場に彼女を一人放っていくわけにもいかない。かといって無理やり起こすにしても、ぐっすりと眠ってしまった彼女を起こすのは難しいだろう。というか多分起きない気がする。
仕方がない、と私は諦めたようにテーブルに置いていた本を開き先程の続きに目を通し始める。
しかし、向かい側のソファーで無防備に眠りこける彼女を意識しないようにすればするほど
どうにも気になってしまい本の内容は頭に入ってこなかった。


2021/04/30

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