いつも帰宅する時間よりは空が明るいが、どんよりとした灰色の雲が空を覆っていた。
そのため、晴れている日の同じ時間帯より薄暗く感じる。
ここ数日は、寒波が丁度日本列島を覆っているため平均より寒さが厳しいと朝の天気予報でアナウンサーが言っていたことを思い出す。
確かに、吐き出した息は白く時折り吹いてくる風は凍えるほど冷たい。
自然と自宅までの足取りが早まる。
「ナナミンー!」
背後から聞こえてきた彼女の声に足を止める。
振り返れば、こちらに手を振りながら彼女が走って来るのが目に入った。
「待ってー歩くの早いよー」
私が立っている少し手前でスピードを緩めると、息を整えながら近づいて来る。
彼女の吐き出した息はやはり白く、頬が赤くなっていた。
寒そうだな、と思ったところで今朝はしっかりと巻かれていたマフラーをしていないことに気づいた。訪ねれば、任務中に邪魔になり外したらどこかにいってしまったのだという。
彼女がこの冬、任務先でマフラーをなくすのは一体何度目になるだろうかという疑問は口にしないでおくことにした。
「寒いねー、コンビニで肉まんでも買って帰ろっか?」
吐き出した息で手を温めながら、コンビニへと歩き出した彼女を呼び止める。
素直に足を止めた彼女に自分が巻いていたマフラーを外して巻きつけた。
「あったかーい!」
「それはよかった」
「でも、ナナミンは寒くない?」
「平気ですよ」
「ホント?やせ我慢してない?」
「してません」
「じゃあ、ありがたく巻かせていただきまーす」
「どうぞ」
緩みきった顔でマフラーに口元を埋める彼女は幸せそうに見えた。
と、そこで視界にふわりとした白いものが落ちてきたのが入る。思わず空を見上げれば、灰色の空からそれは舞うように静かに落ちてきていた。
「雪だ」
彼女もそれに気づき、手のひらを空に向けて落ちてきた雪を乗せてみせた。
ふわりと落ちてきたそれは、彼女の手のひらで溶けて液体となる。
「積もるかなー?」
「どうでしょうね」
「もし積もったら雪合戦しよーね」
「やりませんよ」
「えっ何で!?」
「まったくアナタは……子供じゃないんですから……」
「そうだけどさー、たまには童心に帰ってみるのも悪くないと思うよ」
彼女は、悪戯そうな笑みを浮かべてくる。
「名前はいつも童心でしょう」
「えへへへ」
「褒めてませんよ」
「えっ!?」
わざとらしく呆れたように溜息を一つ吐いた。
「けど、まあ、そうですね……たまには童心に帰るのも悪くないのかもしれません」
次々と舞い落ちてくる雪を見ながら、本当に雪が積もったら子供ではないのだからと言いながらも彼女に雪遊びに付き合わされている自分を想像することは容易い。
たまにはそんな日も悪くはないのかもしれないな、と思った。
2021/02/28