※学生時代
カフェに来ている。
というのも、任務の帰りに彼女に連れられるがまま付き合わされたからだ。
付き合わせられているとはいったが、嫌々というわけではない。嫌であれば今私はここにはいない。誘いをばっさりと断り高専へと戻っている。そうしないのは、相手が彼女であるからだ。
テーブルを挟み向かい側に座った彼女は、席に着くなりメニューに真剣な眼差しを向けている。
きっと数ある彼女好みのスイーツの中からどれを注文しようか悩んでいるのだろう。
「ねえナナミン」
メニューに向けられていた彼女の瞳が私へと向けられる。
「知ってた?ウィンナーコーヒーってウィンナー入ってないんだよね」
「……は?」
「ウィンナーコーヒーってウィンナー入ってないんだよ」
「繰り返さなくても聞こえてます」
彼女の手にしているメニューに視線を落とすとウィンナーコーヒーの文字がある。
それを見て思い出したのだろうが、真剣な顔で何を言い出すのかと思えばいつもどおりにこちらの予想外なことを口走る。
「ナナミンは知ってたの?」
「はい」
「えっ!?」
今日の任務で祓った気持ち悪い呪霊を前にした時も特に驚いた様子は見せなかった彼女が、今日一番驚いた顔を向けてくる。
やはり先程の彼女の言葉から予想はしていたが、ウィンナーが入っていると勘違いしていたことがあったらしい。だからといって、私も同じ勘違いをしていると思わないでほしい。
「ちなみにウィンナーコーヒーの名前の由来も知ってたり……?」
「知ってますよ。ウィーン風のコーヒーという意味です。本場では、アインシュペンナーと呼ばれて……」
今度は、何ともいえない不思議そうな顔をしている彼女に首を傾げる。
「どうかしましたか?」
「待ってナナミン……ウィンナーさんが名付けたからじゃないの?」
「は?」
「だって、悟がウィンナーさんが名付けたって言ってた……」
盛大に溜息が漏れた。
見事に五条さんに騙されてしまっている。面白がって、彼女に嘘を教えないでほしい。
素直に五条さんの嘘を信じてしまう彼女も彼女なのだが、そういう素直なところも彼女の良さではある。騙す方が悪い。
すっかりと誤解をしてしまっている彼女にきちんと説明をする。
「じゃあ私騙されてたってこと!?ちょっと苦情の電話してくるね!」
誤解が解けるとすぐに携帯電話片手に席を立って行ってしまった。
戻って来た彼女が五条さんに上手く言いくるめられて、また何か別の誤解をしていなければいいが。
ウィンナーコーヒーの話題で忘れていたが、注文がまだだった。ひとまず何か頼んでおこうとメニューを手に取る。
彼女はスイーツなら何でも喜んで食べそうではあるが、本人が好きなものを選んだ方がいいだろうと先に飲み物を頼もうと思う。
メニューの飲み物が記載してある項目に目をとおし、彼女には話題にあがっていたウィンナーコーヒーを私はブラックコーヒーを頼むことにした。
よく見るとメニューにはウィンナーコーヒーのホイップクリームを通常より多めに注文出来ると記載がある。彼女にはその方がいいだろう。ホイップクリームがたっぷりと乗ったウィンナーコーヒーを前に瞳を輝かせる彼女の顔が容易に想像出来た。
2021/01/12