任務先から自宅への帰り道、視界の端にケーキ屋が目に入った。
思わず足を止めると、方向を変えケーキ屋へと向かう。甘いものが好きな彼女へのお土産にちょうどよさそうだと思ったからだ。
彼女と恋人になっていなかったら、たまたま見かけたからといってケーキ屋に入ることはなかっただろう。
店内へ入ると、ふわりと甘い香りが鼻腔を擽ってくる。ショーケースには色とりどりのフルーツがふんだんに乗ったケーキがたくさん並んでいた。
もしここに彼女が一緒だったのなら、目を輝かせながらケーキに夢中になっていただろう。その光景が、頭に浮かび少しだけ頬を緩めてしまう。
綺麗に並んでいるケーキの中から、特に彼女が好みそうなものを数種類選び購入した。
会計を済ませ、ケーキが入れられた箱を受け取りケーキ屋を後にする。
ケーキ屋内に長居をしたつもりはないが、冬ということもあり日暮れが早い。店内に入る前はまだ日が沈みかけている途中だったが、すっかりと日は沈んでしまい空は真っ暗になっていた。時折り吹いてくる風も冷たい。巻いていたマフラーを首の隙間を埋めるように直すと、自宅への帰路を急いだ。



帰宅すると、先に帰っていた彼女がいつものように玄関まで出迎えてくれた。
お土産のケーキの箱を差し出すと、予想していたとおりに彼女は嬉しそうな表情に変わる。が、すぐに何かを思い出したのかがっかりしたような表情へと変わってしまった。例えるならば、楽しみにしていたお菓子を買いに行ったが、目の前で売り切れてしまった時のようなそれだ。

「ケーキはすごく嬉しいんだけどね……その、い、今は食べれないから……」

言いにくそうにゆっくりと言葉を紡ぐ彼女に驚く。
あの甘いものに目がない彼女の今回のような反応は初めてだ。

「具合悪いんですか?」
「……ううん」

体調を心配するが、どうも違うらしい。
他に何か調子が悪いところがあるのだろうかと半ば彼女を問い詰めるように質問をしていくと、観念したのかぼそぼそと話し出した。

「その、とても言いにくいんだけどね」
「……」
「えっと……その……た、体重が……増えたから、ダイエットを……」

消え入りそうな声でそう言う彼女に再び驚いてしまう。
彼女との付き合いは短くない。
昔から食べる量など気にせずたくさん食べている彼女が、今まで体重が増えたことを気にしているところを見たことはない。
誰かに食べすぎだと注意されたところで、どこからその自信がくるのかは分からないが大丈夫だよと笑っているのが彼女だ。その彼女が、何故今更と疑問に思ってしまう。

「気にするんですね」
「えっ!?」
「だって、今まで気にしたことないでしょう?」
「う、うん……」
「何故急に?」

そう聞くと、彼女は私から視線を逸らした。

「そ、それは……その……太ったことが原因で別れた恋人の話をたまたまかけたテレビでやってたから……」
「……」
「ナナミンに嫌われちゃったらやだ」

思わず溜息が出た。
何か深刻な理由があるのかと身構えていたが、予想外であり、あまりに可愛らしい理由に気が抜けてしまった。

「名前」
「ん」
「アナタの体重が増えたからといって嫌いになることはないので安心してください」
「……ホント?」
「はい」
「よかったー。じゃあ、ケーキ食べる!」

切り替えが早い。
嬉しそうな笑みを浮かべてケーキの箱を手にリビングへと向かって行く。
ようやくいつもの彼女に戻ったことに安心する。
食べたいものを我慢するよりも、彼女には食べたいものを幸せそうに食べていてほしいと思った。


2021/01/12

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