※学生時代


今日はやけに静かだと思った。
午前中、三年生との合同授業のためグラウンドに行くと物足りなさを感じた。
いつもなら私の名前を呼んで近付いて来て、新作のお菓子の話やその日の星占いの話等割とどうでもいい話をしてくる彼女の姿が見えない。いつからだろうか。それがいつの間にか日常の一部になってしまっていたのは。やけに静かだと感じたのはそのせいだ。
確か昨日まで、三年生は北海道に出張していたはずである。他の三年生は全員いるのに、彼女の姿だけが見当たらない。
もしや、北海道で彼女に何かあったのだろうか。彼女の腕が確かなことは知っている。その彼女にもしも何かよくないことがあったのなら、余程の出来事があったのだろう。大怪我でもしたのだろうか?
近くにいた五条さんに彼女のことを訪ねると予想外な答えが返ってきた。

「あー名前は、昨日任務が終わって、やったー!これで雪で遊べる〜!ってはしゃいで風邪ひいて寝込んでるよ」
「馬鹿なんですか?」

思わず口をついて出た言葉に、目の前の五条さんはゲラゲラと笑う。
彼女に何かあったのだろうか?と心配していた少し前の自分が馬鹿らしくなった。何かあった、ことには変わらないが、その原因があまりにも馬鹿すぎる。
しかし、雪にはしゃぐ彼女の様子を想像するのは容易い。彼女の性格を考えると、雪を前にしてはしゃがない方がおかしい。寧ろ任務が終わるまでよく耐えたと言ったところだろうか。

「それさ、名前本人に言ってやってよ」

五条さんは、笑いすぎたのか目に溜まった涙を指で拭っている。

「悟は名前と一緒にはしゃいでたけど元気だよね」
「馬鹿は風邪ひかないって言うしな」
「ちょっと!家入酷くない?」

などという三年生のやり取りを耳にしながら、昼休みには彼女のお見舞いに行こうかと思った。
風邪をひいた原因が馬鹿すぎるのは確かなのだが、なんだかんだ彼女のことを放っておくことが出来ない自分には自分でほとほと呆れてしまう。

**

昼休みになり、急いで昼食を済ませた後、スポーツドリンクや熱があっても食べやすそうなゼリー等を売店で購入し彼女の部屋へと向かった。
部屋の前でノックをすると、すぐにどうぞと彼女の声が返ってきた。タイミングよく起きていたのはありがたい。
もし、ノックをして反応がなければ売店で購入してきた物が入った袋をドアノブにかけて後にするつもりだった。彼女は普段から部屋に鍵をかけていないため反応がなくても入れるが、流石に女性の部屋に無断で入るつもりはない。
失礼します、と部屋に入り目に入った彼女の姿に溜息が出た。というか頭が痛くなった。本当にこの人は馬鹿なんだろうか。
どうりでノックしてすぐに返事があったわけだ。風邪で寝込んでいると聞いていた彼女はベッドに座り携帯ゲーム機でゲームをしていたのだから。

「何してるんですか?」
「ゲーム」
「風邪は?」
「治ったよ」

薬を飲んだにしても、そんなに早く治るはずがないだろう。

「顔赤いですよ。まだ熱があるんでしょう」
「ないもん。これは、あれだよ、ゲームで興奮しすぎたあれだから」

思わず溜息が漏れる。
ベッドに座る彼女に近付き、額に触れる。やはり熱い。全然治ってなどいない。

「熱あるじゃないですか」

彼女が持っている携帯ゲーム機を取り上げる。

「あっ待って、今関ヶ原が!」
「関ヶ原?」
「そう、決戦の真っ只中なの……何としても西軍を勝たせなくてはならないのだ」
「熱が下がってからにしてください」

このまま携帯ゲーム機の電源を切るとうるさそう、というか彼女の機嫌を損ねかねないので、プレイ中断を選択しスリープ状態にしてベッドから少し離れたところにあるテーブルの上に置いた。
彼女は、私の三成が関ヶ原がとぶつぶつ言っているが、まずは自分の身体を治すことに専念してほしい。

「治ったら好きなだけゲームしていいですから、今は大人しく寝ててくれませんか?」
「……はーい」
「とりあえず色々買ってきたので、置いておきますね」

スポーツドリンクやゼリーが入った袋もテーブルの上に置いた。

「薬は飲みましたか?」
「朝飲んだよ」
「昼は?」
「まだ」
「昼食は?」
「食べてない。お腹減らないもん」
「何か食べないと薬が飲めないでしょう。ゼリーなら食べれますか?」
「うん」

ゼリーを食べ終えた彼女に薬を飲ませて、テーブルの上に置いてあった冷えピタを額に貼った。
そのままベッドに寝かせたのだが、妙に彼女の視線を感じる。

「何ですか?」
「ナナミンなんかお母さんみたい」
「は?ひっぱたきますよ」
「病人には優しくしなきゃダメなんだよ」
「だったら大人しくして、寝てください」
「はーい。あ、そうだナナミン、テーブルの近くにでっかい袋が二つあるでしょ?中に北海道のお土産が入ってるから、好きなの持っていって」

大きな袋が二つ置いてあるとは思っていたが、まさか中身が北海道のお土産だとは思わなかった。
側へ行き、中身を見ると北海道の有名どころのお土産が沢山入っていた。お土産売り場ではしゃいでいる彼女の姿が思い浮かんだ。
それにしても、流石にこの量は多すぎるのではないだろうか。

「買いすぎでは?」
「だって、北海道って美味しそうなお土産いっぱいあるから……。これでも、セレクトしたんだよ?」

成る程、彼女なりに選び抜いた結果がこの量というわけか。
好きな物を持っていっていいとは言うが、おそらく全部食べたくて買ったのだろう。なので、被っている物を選ぶことにした。

「では、これをいただいていきますね」
「どーぞー」
「今度はゲームしないで大人しく寝ててくださいね」
「うん」
「そろそろ昼休みも終わるので戻ります」
「はーい」

彼女の部屋を後にしようとドアへと向かう。
ドアノブに手を置いたタイミングで、ちょっと待ってと彼女の声が追いかけてきた。

「ナナミン、色々ありがとう」
「どういたしまして」


2019/03/17

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -