※学生時代


先輩二人にカラオケに行かないか、と誘われた七海はどうにも嫌な予感がしてはっきりと断った。
あの先輩二人と関わるとろくなことがない。避けられるのなら出来るだけ回避したいと、半ば逃げるように二人から離れ寮の自室のドアを閉めたところで現在に至る。
読書でもしようかと机の上に置きっぱなしだった本へと手を伸ばしかけた時だった。コンコン、とノック音が耳に入り伸ばしかけた手を止める。
なんとなく七海には、ドアを開けなくともそこに誰がいて何の用があるのかは予想がついた。予想というよりも確信といった方が正しい。間違いなく、あの先輩二人に上手いこと言いくるめられ七海を呼んで来てほしいと頼まれた名前が立っているはずだ。
そして、七海が名前に頼まれると弱いことを知っていて、あの先輩二人はやっているのだからたちが悪い。
七海は、諦めたように溜息を吐くとドアノブに手をかける。これが名前でなければ居留守を使って無視をするところだが、相手が名前では七海の中からその選択肢は消えてしまう。
ゆっくりとドアを開けると、そこにはやはり名前が立っていた。
七海の姿を目にすると、嬉しそうに笑みを浮かべてくる。それを見た七海は、きっと最終的に名前に押し負けてしまうのだろうな、と悟った。

「ナナミンあのね、お願いが……」
「お断りします」

押し負けてしまうとは分かっていても、素直に負けるつもりはない。これはただの意地である。

「えっまだ何も言ってないのに!?」
「何を言おうとしているのかは分かっているので。五条さんと夏油さんに頼まれたんでしょう?」
「うっ……バ、バレてる……!?」

バレていないとでも思っていたのだろうか。驚いたような表情に変わる名前に七海は少し呆れた。

「ねーナナミンも一緒に行こーよ」
「行きません」
「硝子も来るってよ」
「そうですか」
「灰原くんも来るよ」
「ああ、彼は行くでしょうね」
「あと私も行くよ。ナナミンも一緒の方が楽しいなー」
「そういう言い方をしても無駄です」
「えー」
「えーじゃありません」

名前は抗議の声を上げると、少しだけ考える素振りをした後、何か閃いたように目を輝かせた。

「分かった」

そう言ったのと同時に、七海は名前に片手をぎゅっと掴まれた。
急なことに驚いて七海の動きが止まる。

「強制連行しまーす」

悪戯そうな笑みを浮かべている名前に、ようやく七海ははっとするが既に遅い。
がっしりと七海の手を掴んでいる名前は、このまま七海のことを連行する気満々だ。ぐいぐいとさっきから七海の手を引っ張っている。

「う、動かない!?」

掴まれた手を無理やり振り解くのも、引かれるがままについて行くのもどちらも七海にとっては簡単だ。
そのどちらもしないのは、七海を連れて行こうと必死になっている名前が、動かない七海を前に今度はどういった行動をしてくるのだろうかというちょっとした好奇心が一つ。もう一つは、もう少しだけ名前と手を繋いだままでいたいという下心が少なからずある。
最終的に自分が名前に押し負けてしまうことは既に確定しているのだから、それまでの過程を少しくらい楽しんでもバチは当たらないだろうと七海は思った。


2020/12/31


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