いつものように帰宅すると、先に帰っていた彼女が出迎えてくれた。
おかえりなさい、と彼女が出迎えてくれるこのやり取りも何度目か分からないが、帰宅して彼女の顔を見ると家に帰ってきた実感が増して安堵する。
彼女が部屋を暖めておいてくれたお陰で、外の凍てつくような寒さと打って変わってやんわりと暖かい。
私の側で、にこにこと機嫌のよさそうな笑みを浮かべている彼女が両の手を差し出してくる。

「はい」

差し出された彼女の手に、それの意図をよく考えずにほぼ無意識に自分の手を重ねる。
外から帰ってきたばかりの私のひんやりと冷たい手に、彼女の手から熱が伝わってきた。
彼女の手の上に乗せた自分の手ですっかりと見えなくなった彼女の手の小ささに少し驚く。彼女と手を合わせたことも繋いだことも度々あるが、こうまじまじと手を合わせてみることで改めてそう思った。
彼女はこの小さな手で日々呪霊を祓っているのか、等と考えていると彼女が唐突に笑い出した。いきなり笑い出した彼女に、わけが分からないという視線を向ければ彼女は一息吐いてから口を開いた。

「えっと……手じゃなくてね、コートを……」
「え?」
「ハンガーにかけるから、コート渡してって意味だったんだけど……ふふっ」

我慢が出来なくなったのか再び笑い出した彼女に、その意味を理解をすると一気に恥ずかしさが増してきた。思わず口元を手で覆う。
彼女は、笑いを止めようとしているようだが止めようとすればするほど止まらなくなっているらしく目に涙を浮かべながら笑っている。

「笑いすぎでしょう……」
「だ、だって……あっはははは!」

どうやらツボに入ってしまった彼女の笑いは止まらない。

「んふふふっ……ナナミンもこういう勘違いするんだね」
「……」
「か、可愛い……ふふっ」
「名前」
「ん?……ふふっ」
「笑いすぎです」

彼女の目尻に浮かぶ涙を指で拭うと、気の抜けたような笑みを浮かべてくる。

「えへへ、ごめん〜」

彼女の気の抜けた笑みを前にこちらまで気が抜けてしまう。
そのせいで、コートをと主語を言わなかったアナタの言い方が分かりづらかったというのもあるのでは?と言おうとしていた言葉はどこかに引っ込んでしまった。


2020/12/13

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