「今度の休みは読書の日にします!」

寝る前にいきなりそう言い出した彼女は、自慢げな顔を向けてくる。
いきなり何を言い出すのだろうと顔に出ていたのだろう私に、彼女は更に言葉を続けた。

「積読増えてきたでしょ?」

彼女に言われて初めて気が付く。
確かに、読もうと思って買ってきたはいいが読まずに本棚に並べっぱなしの本や、書店の袋に入れっぱなしのままの本も数冊ある。
忙しかったというのもあるが、読もうと思っていてもなかなか本へと手が伸びなかったのだ。結果、積読が増えていくばかりで今に至る。

「たまにはゆっくり本を読む日も必要だよー」

にっこりと笑みを浮かべる彼女に、肯定の返事をしてその日は眠りについた。



休日、リビングのテーブルの上に大量の書籍が積み上げられる。
私の積読と、彼女が持ってきた本である。
正確には、今日のために数日前から彼女が少しずつ彼女の分の本、つまり巻数の多い漫画本を運び込んでいた。
並んでソファーに座り、それぞれ読みたい本を読む。BGMに、と彼女がスマートフォンを操作しカフェで流れているようなゆったりとした音楽を流してくれた。
暫くの間、BGMとお互いが本のページを捲る音のみだけがこの空間を包み込む。ゆったりと流れていく時間が心地よい。きっとそれは、私たけではなく彼女にとってもそうだったのだろう。
肩に軽い衝撃を感じ、視線を向けると私に寄りかかり気持ち良さそうな寝息を立てている彼女が目に入った。彼女の手から滑り落ちそうになっている漫画本をそっと彼女の手から離すとテーブルの上へと置いた。
肌寒くはないが、眠るのならブランケットをかけた方がいいだろう。だが、ブランケットを取りに動いたら、私に寄りかかり気持ち良さそうに眠っている彼女を起こしてしまいそうだ。いや、以前リビングで寝入ってしまった彼女をベッドまで運んだ時には全く目を覚まさなかった。ならば今回も平気か、と思考していると彼女の口から寝言が漏れた。

「うーん……し、しろくま……?」

一体、何の夢を見ているのだろうか。
彼女の言う白熊とは、動物の方なのかそれともアイスの方か。おそらく彼女のことだから後者だろう。
思わずふっと笑みを漏らしてしまう。彼女が無自覚なのはいつものことだが、眠っていても和ませてくるのだからやはり彼女には敵わない。
など、と考えるのもいいがいい加減ブランケットを取りに、と動こうとした瞬間だった。

「ね、寝てた!?」

気持ち良さそうに眠っていた彼女が、勢いよく飛び起きた。

「おはようございます」

声をかけると彼女の驚いたような大きな目が私を映す。

「お、おはよ?……えっどのくらい寝てた?」
「数分ですよ」
「数分?でも、三時間くらいは眠ってた気がする……」

不思議そうに首を傾げている。
ふと彼女の視線がテレビ脇に置いてあるデジタル時計で止まる。

「あっそろそろお昼だ!お昼ご飯〜」

立ち上がりキッチンへと向かおうとする彼女に続いて立ち上がろうとすると、その気配を感じ取ったのか彼女は私の肩に手を置き首を左右に振った。

「ナナミンはだーめ」
「何故です?」
「ナナミンは、今日読書以外しないでいい日なの。ご飯も全部私が作る」
「ですが……」
「いいからいいから、気にしないでゆっくりしてて」

機嫌が良さそうな笑みを浮かべてはいるが、ここは私が何を言っても彼女が譲る気がないことは分かっている。
せっかくの彼女の気持ちを無下にしてしまうのは、彼女に対し失礼だろう。素直に彼女の好意に甘えることにする。

「ありがとうございます。では、甘えさせてもらいますね」
「まっかせて!」

嬉しそうに鼻歌を交じえながら、キッチンに向かって行く彼女の後ろ姿をぼんやりと眺める。
今日のようなゆったりとした時間を過ごすのは久しぶりだ。
手元の読みかけの本は、半分を過ぎた辺りまで読み終えている。午後には読み終わるだろう。
今回もそうだが、彼女はたまにこのような時間をわざわざ宣言しては作ってくれることがある。
私では気付かないところに気付いてくれる彼女に助けられたことは今まで何度あっただろうか。彼女のこういうところにも惹かれたうちの一つなのだろうと改めて思った。


2020/09/28

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