※学生時代


不機嫌そうに眉間に皺を寄せている男子生徒が一人。
対照的に隣にいるもう一人の男子生徒は、機嫌が良さそうな笑みを浮かべながら不機嫌そうな男子生徒へ話しかけていた。
適当な相槌を打ち言葉を返している不機嫌そうに見える男子生徒の眉間の皺の原因は、彼に楽しそうに話しかけている男子生徒ではない。
二人は、これからとある呪術師と任務なのだがその呪術師が問題だった。その呪術師は既に高専を卒業しており、たまに高専生と任務を共にしているのだが、高慢な態度から高専生からの評判は良くなかった。
不機嫌そうな男子生徒も、その呪術師と何度か任務を共にしたことがあるのだが、どうにもその呪術師から一方的に嫌われているらしく当たりが強かった。
任務上の付き合いだとは割り切っているのだが、その呪術師の言動があまりにも幼稚なため今日これからのことを考えるとどうしても憂鬱な気分になり自然と眉間の皺が深くなってしまっていた。

「やっほー、二人共今から任務なんでしょ?」

二人がその呪術師を待っている駐車場付近に、呑気そうな女生徒の声が響く。
手をひらひらと振りながら、近付いてくるのは二人より一つ上の名前だった。
任務に同行するわけではない名前が何故ここに?と不機嫌そうな男子生徒、七海は思ったがそれを質問するより先に名前が制服のポケットから大量の棒付きキャンディを取り出す方が早かった。

「はい、任務のお供に糖分あげる。どーぞ!」

名前の両手の上に乗せられたたくさんの棒付きキャンディを先にお礼を言いながら手にしたのは、にこにことした笑みを浮かべていた男子生徒、灰原だった。

「ありがとうございます!」
「どういたしまして」

続けて、七海も一つ棒付きキャンディを手に取る。

「ありがとうございます」

二人が一つずつ棒付きキャンディを手にした後、残りの棒付きキャンディを手にする様子がないことに名前は不思議そうに首を傾げた。

「えっ一つでいいの?」

どうやら名前は、両の手に乗せた棒付きキャンディ全てを二人にあげるつもりだったらしい。
名前は手に残っていた棒付きキャンディを強引に七海と灰原に押しつけるように渡すと満足そうに笑ってみせた。

「名字さんって、棒付きキャンディ好きなんですか?」

名前から受け取った棒付きキャンディのうち一つの包装紙をあけながら灰原は口にした。

「うん、好きだけど……その……今日は棒付きキャンディの日だったから」
「今日は?」

今までの名前との付き合いから、何となく返答に予想はついたものの七海はつい聞いてしまう。

「明日はね、イチゴ味の飴の日。あっもしかして明日の方がよかった?」
「いえ……」
「えーじゃあ、明後日のチョコレートの日?」
「……ちなみに、その次の日は何ですか?」
「うーん………………えっとねー、あっクッキー!」

少し考える素振りをして閃いたような表情をする名前に、絶対今思いついたままに口にしたんだろうな、と七海は思った。

「クッキーがいいの?」
「いえ、そういうわけでは……」
「あっ分かった」
「?」
「全部でしょ?仕方ないなあー、特別に帰ってきた時に全部あげる。だから、今日の任務からちゃんと無事に帰ってくること!」

いい?と、七海と灰原に念を押す。
二人が頷くと安心したように、ここに来た時と同様に手を振りながら名前は去って行く。

「帰ってきたら声かけてねー!」

去りながら何度か七海と灰原の方を振り返っては手を振ってくる。
ぶんぶんと大きく手を振り返している灰原を横目に七海は、結局名前は棒付きキャンディを渡すためだけにわざわざここに来たのだろうか?と思いかけた。名前は今日の任務で同行する呪術師の七海へ向ける態度については知っている。棒付きキャンディを口実に、少しでも憂鬱な気分を和らげるために来てくれたのだとしたら、と、流石に自分の都合が良い方に考えすぎだろうと七海は自分自身に呆れてしまう。
しかし、意外にも七海のその都合の良い考えは的外れではない。名前なりに心配して、授業の合間の休憩時間に二人の元を訪れている。
そして、確かに効果はあったようだ。七海の眉間からは、いつの間にかあの深く刻まれていた皺はなくなっていた。

「七海は分かりやすいよね」

それに気付いた灰原が笑みを漏らす。
七海は、何を言っているのか分からないという素振りをわざとらしくしてみせると、誤魔化すようにポケットに入れていた名前から貰った棒付きキャンディを一つ取り出した。
包装紙をあけると口に含むと、甘い味と香りが広がる。あの人が好きそうな味だな、と七海は思った。


2020/09/28


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