いつものように終電で帰宅する。
いつものようにと言ったが、少し前と違っているのは帰宅すると恋人が待っていてくれることだ。
彼女は夜に強い方ではないのだが、私の部屋に来ている時は無理をしてでも起きて待っていてくれる。
彼女も翌日、仕事いや任務があるのだから先に寝ていて構わないとこの前眠そうな彼女に伝えたら嫌だという二文字が返ってきた。
こういう時の彼女は何を言っても譲らないことは学生時代からの付き合いで分かっているため、効果はないだろうなとは思いつつも無理をしないようにと念を押しておいた。
そうは言いつつも、疲労困憊で帰ってきて他の誰でもなく彼女に出迎えてもらえるのは素直に嬉しいことは事実だ。だが、無理をして起きていたために彼女に翌日の任務で何かがあってはと心配をしてしまうのもまた事実である。
呪術師としての彼女が弱くはないことは知っている。それでも、呪術師がどういうものかは身に染みて知ってるため心配をせずにはいられなかった。
部屋のドアを開けると、リビングに明かりが灯っているのが真っ先に目に入ってきた。やはり今日も彼女は起きて待っていてくれていたようだ。
私が帰った音を聞きつけた彼女はリビングから顔を覗かせると嬉しそうに近付いてくる。

「おかえり〜ナナミン」
「ただいま」

玄関で靴を脱ぎ、リビングへと向かおうとするが何故か私の行く手を塞ぐように彼女が立ちはだかる。
にこにことした笑みを浮かべているが、通してくれる気はなさそうだ。

「あのねナナミン」
「はい」
「大好き」

ストレートな言葉が飛んできた。
唐突に言われた言葉に少し驚いたが、彼女の予想の出来ない言動についてはいつものことである。それに、恋人から大好きだと言われて嬉しくないわけがない。

「ありがとうございます。知ってますよ」

淡々と言葉を返してしまうのは、表情には出さずとも照れからきているのかもしれない。

「えっ知られていた?」

きょとん、とした顔をしている彼女に自然と笑みが漏れてしまう。
当然知っている。知らなかったらこうして恋人になってはいないだろう。

「名前のことなら分かりますよ。分かりやすいので」
「く、悔しい……」

彼女が、すぐに表情に感情が出てしまうことは周知の事実だ。
散々、学生の頃から私だけではなく周囲の人からも言われてきている。
そういえばポーカーフェイスの練習に付き合わされたこともあったな、と当時の記憶が蘇る。結局、練習した成果はなく、失敗に終わり彼女は凹んでいた。
彼女はどうにもポーカーフェイスに憧れがあるようだが、私はすぐに感情が表情に出てしまう嘘の下手クソな彼女が彼女らしくてそのままでいいと思っている。

「名前はそのままでいいですよ」
「え?」

意味を分かっていないのだろう彼女から不思議そうな視線を向けられる。
敢えて何も答えずに、彼女の横を通り抜けリビングへと向かった。
そのままリビングへと足を踏み入れようとしたが、一歩手前で足を止めると未だ廊下に立ちつくしている彼女へと振り返る。
何故、彼女がいきなり大好きと伝えてきたのか意図は読めないが、言われて嬉しかったことは事実である。先程の私の淡々とした返し方ではおそらく彼女に私の気持ちは伝わっていないだろう。

「名前」
「ん?」
「アナタに大好きだと言われて嬉しかったですよ」
「えへへ、それはよかった!」

悪戯の成功した子供のように嬉しそうな笑みを浮かべる彼女はやはり可愛らしい。
疲労困憊で帰って来たが、彼女のお陰で疲労感が少しどこかへ消えた気がした。


2020/09/14

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