※学生時代


丁度、任務を終えあとはこの場を離れるだけのところだった。
常日頃聞き慣れてしまった声に名前を呼ばれ、振り返るとやはりそこには彼女の姿があった。
少し離れたところから手を振りながら駆けて来る。
真っ先に思ったのが、何故彼女がここにいるのだろうということだった。今回、彼女が後から合流するという話はなかったし、任務の後に彼女と何か約束をしていたわけでもない。
不思議に思い立ち止まっていると、近づいて来た彼女が私の姿を目にした瞬間顔を青くするのが分かった。

「ナ、ナナミン!?ち、血が!?えっど、どうしよう!?どうしたらいいんだっけ?硝子ォー!!」

任務中に、額を切ったところから流れ出た血と腕も軽く切っていたためそれらがワイシャツを赤く染めていた。
見た目ほど重症ではないのだが、目の前の彼女は慌てふためいてしまっている。

「名前、とりあえず落ち着いて」

うろうろと私の前を歩き回っている彼女の肩へ家入さんの手が置かれる。
彼女と家入さんは一緒に来たらしいが、彼女が先に走ってここまで来たために歩いていた家入さんは今しがた到着した様だった。

「家入さんの言うとおり、落ち着いてください」

私と家入さんに宥められ、落ち着きを取り戻した彼女は大人しくなった。
この人は、怪我をしている張本人である私より取り乱しすぎではないだろうか。私が怪我をしたところを目にするのは初めてではなかったはずだ。
彼女に問えば、驚いた様な表情を向けられる。

「ナナミンは慌てなさすぎじゃない!?」
「名前が慌てすぎなだけです」
「そんなことない」
「そんなことありますよ」
「む……だって!心配するに決まってるでしょ!」

そうだ、彼女はそういう人だ。
彼女自身が怪我をした時は周囲に心配させまいと無理に強がってみせるくせに、誰かが怪我をした時はその誰かの心配ばかりしてくる。
彼女に心配されることが嫌なわけではない。たまには私にも、彼女に何かあった時には心配をさせてほしいと思うのだ。

「……すみません」

そう思っていながらも、結局は今回も彼女に心配させてしまっているわけで、素直に謝罪を口にする。

「あ、別に怒ってるわけじゃなくてね……」
「……」
「無事ならそれでよくって……うん、無事でよかった」

という会話を彼女としているうちに、家入さんは反転術式で私の怪我を治し終えていた。
まるで傷など最初からそこに存在しなかった様になくなっているが、赤く染まったワイシャツが怪我をしていたことを物語っている。

「ありがとうございます。家入さん」
「いいよ」
「ねえナナミン私には?」
「名前は何もしてないでしょう」
「えー、せっかく差し入れ持って来たのになあ……」

手に持っていた大きめのコンビニの袋をこれ見よがしにチラつかせてくる。
彼女がここに来た時から持っていたそれは、コンビニで彼女用の新発売のお菓子でも買ってきていたのかと思っていたが、差し入れに持ってきてくれていたらしい。
成る程、ようやく彼女がここに来た理由が分かった。

「差し入れいらないのかなー?」
「いただきます」
「そう言うと思った。はい、どーぞ!」
「ありがとうございます」

受け取ったコンビニの袋には、お菓子とパンと飲み物が入っていた。
よく見れば、それらは彼女好みというよりは私好みの物ばかりだ。私の好みが彼女によく知られているということ、それを選んで買ってきてくれたことが素直に嬉しい。
もう一度、礼を口にすれば彼女はようやく安心した様な笑みを浮かべた。


2020/07/02

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