彼女と初めて映画を観に行った時の話をしようと思う。
夜に一緒にテレビを見ていた時のことだった。丁度コマーシャルで、映画の予告が流れ出すと彼女はすかさず反応を示した。何か好きなものを目にする時の瞳は普段とは違い輝いて見えるものだが、映画の予告に魅入っている彼女の瞳がまさしくそれだった。
映画の内容はというと、サメとエイリアンが戦闘を繰り広げる話らしい。予告にも、サメとエイリアンがひたすら戦っているシーンが流れている。サメにエイリアンと戦うだけの戦闘力があるわけないだろうと思ったが、予告で流れたシーンでは想像以上に戦えていたから驚いた。
そういえば、と思い出す。彼女は昔からモンスター同士が戦いを繰り広げる映画を好んで観ていた。
学生時代に、面白いからと半ば強制的にゴリラとサメが戦う映画のDVDを押しつけられたことがあった。私の好みとは違うそれにあまり観る気は起きなかったが、後に彼女との会話のネタになるだろうと観始めてみると意外にストーリーもしっかりしていて面白かったことを覚えている。

「名前は昔からこういうの好きですね」

映画の予告が終わり、スポーツドリンクのコマーシャルが流れて出す。

「うん、大好き!」

未だキラキラと輝いている瞳が私へと向けられる。
大好き、と今日一番と言っても過言ではない彼女の笑顔に釣られて私も口元が緩むのを感じた。



映画を観る時には絶対ポップコーンとコーラは外せないと言い切った彼女は、映画館の売店で何味のポップコーンにするのか迷っていた。
数日前に、テレビコマーシャルで予告が流れた映画を観に来ている。座席は既に予約してあるので、後はポップコーンと飲み物を買って席に着くだけだ。

「決まりましたか?」
「うん、決めた!この……塩味とキャラメル味を一番大きいサイズでください」
「え?」

思わず声を上げてしまった。
一番大きいサイズなら一つで十分では?と続けようとしたが、よく食べる彼女には不要な心配かと思い口を噤む。
というか、彼女の悩みっぷりから予想するに、量よりも塩味とキャラメル味どちらも食べたいのだろう。

「え、ナナミン食べないの?」

勘違いした彼女が、驚いた様に聞いてくる。

「あ、違う味がよかった?ごめんね、勝手に選んじゃった……」
「いえ、アナタの好きな味で構いませんよ。ただ、その量は流石に多いのではと思ったんですが……名前なら心配入らなかったですね」
「えっへへへ」

褒めたわけではないのだが、照れた様な笑みを浮かべる彼女を可愛いと思ってしまう。
という私達のやり取りを黙って待っていてくれた店員からは温かい視線を感じた。



予想していた以上に、冒頭からグロテスクなシーンが連続している。
職業柄これ以上にグロテスクなものを目にすることも多いため、作られた映像を見たからといって気持ち悪くなることはない。彼女もきっと同じだろう。わざとらしく怖がってみせる様な人ではないし、そもそも好んでモンスター同士が戦う映画を観る人である、今更心配は不要だろう。
ちらりと隣に座る彼女に視線を移せば、大好きなものを目にした時特有のキラキラとした目の輝きをしていた。けれど、視線はスクリーンから外さずポップコーンに手を伸ばしては口に運ぶという一連の動作が止まる気配がないのを見て彼女らしいと思った。

エンドロールが終わり、照明が消えていた空間に明かりが灯る。
少しの沈黙の後ざわざわとした周囲が音を立て始めると、彼女は相変わらずキラキラとした目をこちらに向けて満足した様に口にした。

「面白かったね!」

確かに面白かった。
正直、予告を見た時点ではそこまで期待を持てなかったのだが、それは見事に裏切られ予想以上に重厚なストーリーと途中のどんでん返しと気が付けば夢中になっていた。

「でも、途中いきなりサメがいっぱい出てくるからびっくりした!」

座席から立ち移動している間も、ずっと映画の感想を喋っている彼女は本当に楽しそうだ。

「あの終わり方は絶対続編あるよね!」
「あれは……そうでしょうね」
「もし続編があったらまた観に来ようね」
「ええ」

そういう会話をしたのを覚えている。
そして、あれから一年後の今日ついにあの時観た映画の続編が公開される。
約束どおりに彼女とその続編を観に行く。お互い忙しかったこともあり、一緒に映画館に行くのは丁度一年ぶりになる。
きっと彼女は一年前と同じ様にコーラと一番大きいサイズのポップコーンを頼むのだろう。


2020/06/22

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