「パーはパーマのパー、ンーはンドランゲタのンー、ダーはダーツのダー」
任務先へと向かう道中、微妙に音を外しながら車内に名前の歌声が響く。
今から任務に向かう大人の言動とは思えないのだが、呪術師には変わった人間が多いこと、何より付き合いの長い名前という人間を分かっているため運転席の伊地知は口を挟まずに無心で運転を続けていた。同時に、ツッコミを入れたら負けだとも少しだけ思っていた。
しかし、後部座席に名前と並んで座っているパンダは答えに予想はついていても聞かずにはいられなかった様である。
「なあ、名前」
「んー?」
「それ何の歌だ?」
「パンダの歌」
捻りすらない予想どおりの返答に、思わずパンダは溜息を落とす。
「パンダ要素なさすぎだろ!?」
「頭文字を繋げたらパンダになる」
「つーか、ンドラなんとかって何だ?」
名前が歌っていた歌詞の中に一つ、聞き慣れない単語が含まれていた。パンダに関係のある単語ではないのだろうが、一体それが何であるのかは気になる。
「ンドランゲタね。イタリアの四大マフィアの一つだよ」
沈黙。
車のエンジン音とすれ違う車の音だけが車内に響く。長いと思われた沈黙の後、振り絞る様にパンダは声を出した。
「………………なあ」
「んー?」
「何でお前そんなの知ってんだ?」
「それはね、ネットサーフィンは時に色々な知識を与えてくれるからね」
ふふん、と得意げな顔をしているが、おそらく暇潰しにネットサーフィンをしていてたまたま見つけて覚えていたのだろう。たまたまそんな単語にいきつくというのも、一体何を調べていたのかと気にはなるが、予想のつかないことばかりする名前のことであるから考えるだけ無駄だろうなとパンダは思った。
「あのー……」
着きました、と伊地知が後部座席を振り返り声をかけてくる。
「はーい。じゃあ、行きますか!」
勢いよく車のドアを開くと、名前は再び彼女曰くパンダの歌を口ずさみながら車外へ出て行く。
パンダはその後に続きながら、やはり名前という人間はよく分からないと思った。いや、名前以外の人間のこともよく分からないが、この名前という人間はその中でも特に分からない部類に該当するだろう。
名前のことがよく分からないパンダではあるが、彼女のことが嫌いではないことだけは事実である。
2020/06/15