眠れない。全く眠くならない。寝ようとすればするほどに頭が冴えていく。
ベッドに入ってから一時間くらいは経った感覚だが、正確にはもっと経っているかもしれない。今が何時なのか時刻を確認したら負けの様な気がして、時計は見ないことにしている。
何度めか分からない寝返りを打つ。同時に少し唸っていたかもしれない。

「眠れないんですか?」

隣で既に眠っていたと思っていた彼から声がかけられる。

「えっ……あーうん、ごめんね……。もしかして、起こしちゃった?」

今し方寝返りを打ったばかりの向きを再び変えて、彼の方へと向き直る。
明かりを消して暗いはずの部屋だが、既に目が慣れてしまっているため私に向けられていた彼の瞳がよく見えた。

「いえ、私も同じでしたので」

二人揃って眠れないとは珍しい。
寝る前にコーヒーを飲んだわけでもない。特に眠れなくなる様なことをしたわけでもないのだが、何故こんなにも眠れないのだろうか。
羊を数えると眠れるとよく聞くが、二十を超えた辺りで飽きてやめてしまった。というか、余計に目が覚めた気さえした。
やはり眠くなるには、疲れることをするのが一番効果があるのかもしれない。

「ねえ思ったんだけど、身体動かせば眠くなるかもしれない。ということで、ちょっと外走ってくる」
「は?」

勢いよくベッドから起き上がり、そのままベッドから降りようとした私の手を彼の手が引き止める。

「名前……こんな時間に流石にそれは危ないのでやめてください」

でも、と言葉を続けようとした私に再び彼から静止の声がかけられる。

「仕方ありませんね。少し大人しく待っててください」

勝手にいなくなったりしないようにと、大人しくの部分を強調して彼はベッドから出ると部屋を後にした。
ここまで彼に言われて勝手な行動を取ろうとは思わない。ベッドの上で体育座りをして待ってみるが、暗い部屋に一人残されるのは妙に心細くなり彼の後を追いかける様に部屋を出る。
すると、ふわりといい匂いが鼻腔を擽った。匂いのする方へと向かえば、彼がキッチンで丁度二人分のマグカップに匂いの元を注いでいるところだった。

「……ホットミルク」
「起きてきてしまいましたか。今持って行こうとしていたところです」

どうぞ、と彼が私のマグカップを差し出してくれた。

「ありがとう」

受け取り、一口飲むとふわりとした優しいミルクの味と程よい甘さが口内へと広がる。

「美味しい。これ……私好みの甘さだ」
「それはよかった。眠れそうですか?」
「うん」

その後、リビングのソファーに並んで座りホットミルクを飲んでベッドへと戻った。
ベッドに横になり少しの間、他愛のない会話をしていたのは覚えている。どちらが先に寝落ちたのか分からないが、おそらく私の方だろう。
眠れなかったのが嘘の様に、朝までぐっすりと眠っていた私は彼が私を呼ぶ声で目を覚ました。


2020/06/01

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