そろそろ寝ましょうか、と七海が隣に座っていた名前に声をかけようとしたタイミングだった。
テレビを見ながらスマホを弄っていた名前は、おもむろに目の前のテーブルの上にスマホを置くとぼそりと呟いて体育座りをしている膝の上に頭を乗せてしまった。本人は独り言のつもりで七海に聞かせるつもりはなかったのかもしれないが、この距離では十分に聞こえてしまう。

「甘やかされたい」

そう漏らした名前の声ははっきりと七海の耳へと届いていた。

「名前」

彼女の名前を呼ぶ。
膝の上に乗せられていた頭が上がり、疲れた様な眠たそうな瞳が七海に向けられる。
ここ数日、出張だった名前の任務は通常よりも多忙を極めていたと伊地知からも聞いて知っていた。何より帰って来た彼女の様子からも十分に疲労の色を伺うことが出来た。
本人は、これくらい平気だとは口にしていたもののやはりどこか無理をしていたのだろう。

「どうぞ」

七海が名前の方へ向きを変え、腕を広げると驚きを含んだ彼女の目が大きく広げられた。

「えっ?」
「甘やかされたいんじゃないんですか?」
「え、あー……えっと」

どうにも煮え切らない態度を取る名前に、七海は何を今更と思う。
普段は彼女から七海に抱き付いてくることの方が多いというのに、いざ七海から触れにいくと何故か彼女は戸惑うことが多い。以前、自分からくっつくのは平気なのだと彼女は言っていた。その理屈が七海にはよく分からなかったが、それでも、最近はようやく慣れてきた様に思っていたのだが、この反応を見るとそうでもなかったらしい。

「名前」
「うっ……」
「甘やかしてあげますから、どうぞ」

言いながら七海は、名前を引き寄せるとそのまま腕の中に閉じ込めた。すっぽりと七海の腕の中に収まってしまった彼女は抵抗することはないが、やや肩に力が入っている様に感じた。
そっと、彼女の頭を七海が撫でるとその力もゆっくりと抜けていく。
少しの間そうしていると、名前は控えめに七海の服を掴み七海のことを緩んだ瞳で見上げる。

「ナナミンありがとう」

どういたしまして、と言葉と同時に七海は名前の額へとキスを落とした。


2020/06/01

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