時刻は二十三時過ぎを回った頃だ。
ソファーに並んで座り、隣で漫画本を読んでいた彼女がぱたんと漫画本を閉じた。丁度、読み終わったのだろう。漫画本をテーブルの上へと置くと、立ち上がりキッチンへと向かっていく。
冷蔵庫の中から箱を取り出し、食器棚から皿とスプーンを持ってくるとテーブルに置いた。
夕方に帰って来た彼女が、お気に入りのケーキ屋の箱を手に鼻歌混じりに冷蔵庫へと入れていたのは知っていた。夕飯の後、デザートに食べるのかと思っていたが彼女がデザートに食べていたのはプリンだった。だから、明日にでも食べるのだろうと思っていたらこのタイミングで食べるらしい。

「今から食べるんですか……」
「うん、食べたい時に食べるのが健康にいい。じゃーん、ティラミスでーす!」

箱を開けると少し傾けて、中身を見せてくれた。そこには綺麗にカットされたティラミスが二つ並んでいた。

「美味しそうでしょ?食べよー」

彼女は箱からティラミスを取り出し、皿の上へと乗せてこちらに差し出してきた。
それを受け取りながら、お気に入りのケーキ屋で買って来たティラミスを食べるのが嬉しいのだろう機嫌が良さそうな彼女は絶対にこのティラミスの意味については知らないのだろう。
ということを確信しているが、一応彼女へと確認の意味も含めて質問をする。

「名前、これは誘いだと受け取っていいんですか?」
「え?誘い?ティラミス食べる誘いってこと?」

首を傾げて不思議そうな表情を向けてくる。

「いえ、そうではなく……」
「違うの?どういうこと?」

私の口から言ってしまうのは簡単だが、少しだけ悪戯心が疼いてしまう。彼女に調べてみるように促すと、スマートフォンを手に取り言われるがままに調べ始めた。
彼女はすぐに表情に現れるから、その意味を理解すれば慌て始めるだろうということは予想がつく。

「えっ……!?あ、あああのね、私はティラミスがただ食べたかっただけで……!そのような意図があったわけではなくて!?」

両手を振りながら話し出した彼女の手からスマートフォンが滑り落ちる。ごとん、と鈍い音を立てて床の上へと転がった。
あわあわと落ち着かない様子の彼女を落ち着かせるために頭を撫でる。
彼女がその意味を知らなかったことも、意味を知ればこうなるだろうとは想像していたとおりだったが少し意地悪をしすぎただろうか。

「落ち着いてください。でも、これで分かったでしょう」
「……うん」

ぽんぽんと再度頭を撫でると、彼女は少しだけ落ち着きを取り戻した。

「ですので、私以外に夜にティラミスを食べようと誘ったりしないでください」

床に落ちた彼女のスマートフォンを拾い、彼女に渡しながら念を押せば驚いたような表情に変わる。
その後すぐに、まだどこか落ち着かない様子で分かったとだけ返ってきた。


2020/03/22

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