休憩室へと入ると、そこには既に先客が二人いた。

「ナナミンー!硝子が冷たい!」

足を踏み入れた私の姿を見るなり、彼女が駆け寄ってくる。
家入さんと休憩をしていたらしい彼女に、何があったのかと説明を求めれば、家入さんを飲みに誘ったのだが断られ続けているということだった。
この二人は、お互いの好きな物を見かけてはプレゼントしあったり、休日に買い物に出かけたりと学生の頃から仲が良かった。
仲違いをする様な二人には思えないのだが、何故家入さんは彼女の誘いを断るのだろうか。

「どうしよう……硝子に嫌われた……」
「それはない」

家入さんは即座に否定した。
ソファーに座っている家入さんは、マグカップを片手に優雅にコーヒーを飲んでいる。

「では、何故?」
「名前と飲みに行くと、甘いカクテルにつまみをデザートにして延々と飲むでしょ。甘すぎて見てると気持ち悪くなる……」

確かに、彼女はそういう飲み方をする。
おまけに、ザルでもある。甘いカクテルしか飲まないが、いくら飲んでも酔わないのだ。そして、その小柄な身体からは想像もつかないくらいに食べる。
甘い物が苦手な人間からしたら理解出来ないだろうし、見ていて気持ち悪くなるというのも分からなくもない。
何と彼女に言葉をかけようかと、ちらりと視線を向けると何か閃いた様な表情をしていた。

「じゃあ、デザートつまみにするのやめる。焼き鳥にする。それなら一緒に行ってくれるでしょ?」

今度は家入さんの方へと駆け寄って行き、その隣へと座った。

「ああ、それなら行く」
「やったー!」

家入さんが優しく彼女の頭を撫でる。
やはりこの二人は仲が良い。嬉しそうな彼女を見て安心した。
よかったですね、と一言彼女に告げ自分のコーヒーを淹れるためにコーヒーメーカーが置いてある棚へと向かう。
マグカップにコーヒーを淹れ、彼女と家入さんが座っている向かい側のソファーへと腰を下ろす。すると、彼女は待っていたかの様に口を開いた。

「ナナミンも一緒に行こ?」

彼女の誘いは嬉しいが、私が行けばせっかくの女性同士の飲み会を邪魔してしまうことになるだろう。
ここ連日、任務続きだった彼女と忙しそうにしていた家入さんが二人でどこかに出かける時間はなかったはずであるから尚更だ。

「ぜひ、と言いたいところですが、せっかくの女性同士の場を邪魔してしまうのは申し訳ないので遠慮しておきます」
「気にしなくていいよ」
「ですが、二人でどこかに出かけるのは久しぶりでしょう?」
「うん」
「私のことは気にせず楽しんで来てください」

でも、と言いかけた彼女に家入さんが口を挟む。

「名前。私も久々に名前と二人がいいな」

家入さんの台詞が彼女にトドメを刺した。

「……硝子がそう言うなら分かった」
「というわけで七海、名前のこと今日は帰さないから」

家入さんは彼女の腰に腕を回しぐいっと引き寄せた。軽く抱き締められている様な形になった彼女は驚いた顔をしている。

「え、じゃあ今日は硝子の家に泊まっていいの?」
「いいよ」
「やったー!」

ぎゅっと家入さんに抱き着いた彼女の頭を軽く撫でると、勝ち誇った様な表情をこちらへと向けてくる。
思わず溜息を漏らしてしまった。
昔から、たまに今回の様な彼女とのやり取りを見せつけてくる人だった。この二人の間に割って入ることは出来るはずがない。昔は、彼女達のその距離感が羨ましくもあったが、彼女が恋人になった今となっては昔程ではない。
それでも、目の前で彼女の友人とはいえまるで恋人同士の様なやり取りを見せられるのは少し複雑ではある。
今更になってしまうが、この二人の距離感は近過ぎるではないだろうかと思った。


2020/02/16

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