※学生時代


「あのコンビニまで競争ね!」

緩い坂道の先にあるコンビニを指差すと、言い終わらないうちに彼女は走り出していた。
隣を歩いていた彼女との距離がどんどん離れていく。
時刻は、夕方の薄暗くなってきた辺りの頃だった。
任務帰りに他愛のない会話をしながら歩いていたのだが、唐突に彼女は先の言葉を口にすると駆け出していた。
彼女は、行動に移すのが早い。このようなやり取りは今までにも多々あった。だから、彼女の走って行く後ろ姿を見るのは慣れている。
そう、慣れているというのに、何故だか今日は遠ざかって行く彼女がそのままどこかに消えていなくなってしまいそうな予感がした。
不安になり、自然と足が動き出す。彼女の後ろ姿を追いかける。離れていた距離はぐんぐんと縮まっていく。
手を伸ばして届く距離まで近付くと、彼女の手首を掴んだ。

「待って……」

ください、と続けようとした言葉は何故か喉に引っかかって最後まで出てこなかった。

「わっ!?びっくりした!」

私に手首を掴まれた彼女は驚いた様に足を止める。

「ナナミン?」
「……すみません」

掴んだままの彼女の手首から手を離した。
自分でも何がしたかったのか分からない。まさかアナタがどこかに消えていなくなってしまいそうだったので、とは言えない。
気まずくなり彼女から視線を逸らす。

「ナナミン」

視線を逸らしていても、私の名前を呼ぶ彼女が少しだけ微笑んだのは分かった。

「置いてったりしないから大丈夫だよ」

一歩、彼女はこちらに近付く。
小柄な彼女は自然と私の顔を下から覗き混む形になってしまう。
私の思考を見透かした様に見上げてくる彼女の瞳にどきりとした。
彼女は、自分のことには鈍感であるのにこちらの些細な変化に妙に鋭いところがある。相手のことを見抜く能力が高いのかといえばそういうわけでもなく、おそらくなんとなく無意識にそう感じたから行動に起こすのだろう。
過去にも、彼女のそれに何度と助けられている。今回もそうだ。本当に、ずるい人だと思う。今の私では到底彼女に敵わない。

「じゃあ行こっかー」

自然な流れで手を繋いでくる。
彼女の小さな手を私の手が包み込んでしまう形になってしまっているはずなのだが、不思議と彼女の手に包み込まれている安堵感がある。
歩き出した彼女に引かれるがままに私も足を踏み出した。
彼女と手を繋いでいられるのは、コンビニまでの残り数十メートルだけだろう。
出来ることならばコンビニまでの数十メートルが延々と続いたらいい、と柄でもないことを思ってしまう。
そして、勿論、この繋がれた手を解くという選択肢は私にはなかった。


2020/02/09


×
「#幼馴染」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -