※学生時代


京都姉妹校交流会。一日目、団体戦が始まる。まだ顔合わせの段階だというのに、既に京都校側に絡まれていた。
京都校側に目をつけられているのは、私の隣にいる彼女、名字名前だ。
相手側の隠す気がない態度からもよく分かるが、随分と彼女のことを格下に見ている様だ。
呪術師の家系出身の者が多い京都校側からしたら自然とそうなってしまうのかもしれない。
彼女は、高専に入学する前までは一般の学校に通い普通の生活を送ってきている。
私も彼女と同様なのだが、私に絡んでこないのは、顔合わせの前に既に絡んできた京都校の一人を返り討ちにしたのが効いているのだろう。
彼女は高専に入学する前まではごく普通の生活を送ってきていたと言ったが、正確に言えば少し違う。
彼女には、生まれた時からずっと一般人には見えないものが見えていたというし、それに対抗出来る術も持ち合わせていたのだから。
そんなことを知るはずもない京都校側は、彼女のことを一般出の格下がなどと煽っている。
煽られている当の本人はといえば、明らかに何か違うことを考えている顔をしていた。京都校側のことなど眼中にない様に見える。

「名前」

呼んでみたが反応がない。
再度、彼女の名前を呼ぶとびっくりした様にこちらに視線を向けてきた。

「え、何!?」
「さっきから煽られてるけど、何か言い返さなくていいのかい?」
「私?」
「ああ」
「えっと、ごめん。勝ったら先生がパフェ奢ってくれるから、何のパフェにしようか考えてて全然聞いてなかったです。もっかい言ってもらっていいですか?」

きょとん、とした顔で京都校側へと言い放った。
おそらく彼女に悪気は全くないのだろう。無意識に相手を煽ることに関して天才的かもしれない。
勿論、それを聞いた京都校側はぎゃあぎゃあと騒ぎ立てていた。というか、ぶち切れている。
私は、笑いそうになったのを堪えていたが、私の隣にいた悟があまりにも爆笑するので堪え切れずに吹き出してしまった。
家入は、物凄く呆れた顔で彼女のことを見ていた。



団体戦が始まり、各自で行動していた。
作戦を話し合ってそれぞれ分かれる前、彼女はまだパフェについて悩んでいる様に見えた。おそらくあれでは、作戦は全く頭に入っていないだろう。現在進行形で彼女はパフェのことだけ考えていることが、今までの付き合いから容易に想像がつく。
彼女は決して弱くはない。だが、あの調子で大丈夫だろうかと心配してしまう。

「名前、大丈夫だと思うかい?」

隣を呑気に歩いている悟へと何気なしに聞けば、カラカラと乾いた笑いを漏らした。

「大丈夫でしょ。寧ろ名前を舐めてかかってる京都校の奴らが不敏だろ」

心配いらないね、と言い残して悟は前方の二手に分かれた道の左側へと進んで行く。私は、逆の右側への道へと歩を進めた。



皆と分かれて、一人森の中を進む。
進みながら私は、何か作戦があった様な気がするが、全く頭に入っていないことに愕然としていた。
作戦を立てていたことは覚えている。それを傑が説明していたこともちゃんと覚えている。
だが、その肝心な作戦の内容が全く頭に残っていない。私の頭を占めているのは、パフェのことだけだった。
フルーツパフェとチョコレートパフェのどちらにするのか、という究極の二択までは絞った。そこからが悩みどころで、それぞれのパフェの魅力について考えていたら作戦が頭に残っていなかった。残念な頭だと思うが、仕方がない。何故なら、何とか先生にパフェの約束をこじつけたが、奢るのは絶対に一つだけだと念を押されたため、どちらかのパフェに決めなければならないからだ。何とも悩ましい。
どちらのパフェにしようかと悩み続けていた私の意識は急激にパフェから現実に戻される。
何故なら、いきなり攻撃されたからだ。遠距離からの攻撃を躱し辺りを確認する。姿は見えない。森の中に上手く隠れている様だ。これは、呪霊ではない。京都校の誰かだということは分かる。
妨害するのはありだと聞いているが、先の攻撃には明らかに殺意が篭っていた。呪術師同士で殺し合うルールではなかったはずだが、随分と血の気が多いらしい。
再び飛んできた攻撃を躱す。先の攻撃とは違う方向から飛んできたことから、移動して場所を把握されない様にしていることが見て取れる。
姿を隠してコソコソと攻撃してくる実にめんどくさい相手だ。
そういう相手であるなら、やることは決まっている。相手が隠れているだろう私の周囲の木々を薙ぎ払えばいい。

「いっきまーす」

パフェがかかっている私はこんなところでやららるわけにはいかないのだ。
パフェのために何としても勝ち残らなければならない。
絶対に勝つ、気合いを入れて術式を発動させた。


2019/12/31



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