寮の共有スペースにサンタクロースがいた。
正確には、サンタクロースのコスチュームに身を包んだ彼女がいた。
こちらに気付くと、大きな白い袋の中からプレゼントを取り出して差し出してくる。

「メリークリスマス!」

差し出されたそれは、綺麗にラッピングされた袋に大量にクリスマスのお菓子が入っていた。
サンタクロースというのは、子供が眠っている時に枕元にプレゼントを置いていく存在だったはずだ。面と向かってプレゼントを渡してくる存在ではない。
まさかとは思うが、プレゼントの大量のお菓子といいサンタクロースの格好といい彼女はまだハロウィンから抜け出せていないのではないだろうか。

「名前、ハロウィンは終わりましたよ」
「知ってるよ!」
「知ってたんですね」
「ちょっとナナミン失礼じゃない?もしかして、お菓子いらないの?」
「いえ、貰います」
「はい、どーぞ」
「ありがとうございます」

彼女からプレゼントを受け取る。
受け取ったそれは思ったよりずっしりとしていた。

「じゃ、みんなにもお菓子配ってくるねー。サンタクロースは忙しいのだ」

よいしょ、と大きい白い袋を持ち上げるとこちらが声をかける前に足早にどこかへ行ってしまった。
実は、私からも彼女へクリスマスプレゼントを用意していたのだ。それを渡そうと思っていたのだが、彼女に先を越されあげく彼女はプレゼントを配りにどこかへ行ってしまった。
手元には、彼女から貰ったプレゼントと彼女に渡すプレゼントが入った袋が二つ。
おそらく彼女は、プレゼントを配り終えれば、寮へと戻ってくるだろう。寮の共有スペースで待っていれば再び会えるはずだ。

暫くすると、彼女は空になった大きな白い袋を片手に戻ってきた。

「あれ?ナナミンもしかして私のこと待っててくれたの?って、そんなわけないかー」
「そんなわけありますよ」
「え?ホントに?」
「はい」

驚いている彼女の側へ行き、用意していた彼女へのプレゼントを差し出した。

「メリークリスマス。私からのプレゼントです」
「えっいいの!?ありがとう!」

嬉しそうにプレゼントを受け取るサンタクロースではなく彼女を見ていると自然と口元が緩むのを感じた。
それを隠す様に軽く咳払いをしてみたが、彼女はプレゼントに夢中で気付いていない。彼女が鈍くてよかったと思った。



美容室で前髪を切り過ぎたらしい彼女は帰ってきてから、コンパクトミラーに映る自身の前髪を見ながら唸り声をあげている。

「やっぱりちょっと切り過ぎたよね……」

ごろん、とソファーへと寝そべるとあーとかうーとか唸り声をあげ続けている。
私から見れば、そこまで切り過ぎた様には見えないのだが本人はどうにも気になるらしい。

「そんなに切り過ぎた様に見えませんよ」
「えーそうかなー……」

向かい側のソファーに座っていた私は、ふと彼女が手に持っているコンパクトミラーに見覚えがあることに気付いた。
思い出すのに、少しだけ時間がかかったがそれは学生の頃に私がクリスマスに彼女にプレゼントしたコンパクトミラーだった。

「名前……そのコンパクトミラーまだ使っててくれたんですね」
「え?うん。だって可愛くて気に入ってるし、あと、それにね……」

一旦言葉を区切ると、彼女は起き上がって私の方へと向き直った。

「これナナミンがお菓子以外で初めてくれたプレゼントだから大事にしてるの」

えへへ、と緩み切った笑みを浮かべる。
学生の頃、そのコンパクトミラーを彼女へのプレゼントに決めるのに随分と時間がかかったことを思い出した。
クリスマスプレゼントに彼女に何をあげようか色々と調べては普段行かない様な店を何件も梯子して、ようやく彼女が好きそうなデザインのコンパクトミラーを見つけたのだ。
迷いに迷って決めた彼女へのクリスマスプレゼントだったが、ずっと大事にしてもらえている様で素直に嬉しいと思った。


2019/12/23

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