※学生時代


「あんまん!肉まん!カレーまん!」

中華まんの名前を言いながら、次々と呪霊を手に持っている巨大な鎌で刈り取っていく。
彼女と二人、とある廃村に溜まっている大量の呪霊を祓う任務に来ている。
近隣に自殺の名所と墓地等があり、間にあるこの廃村には呪霊が溜まりやすい。数は多いものの二級程度の呪霊しかいなかったため苦戦はしなかった。

「おまけにピザまーん!」

そう言って、襲いかかろうとしてきた巨大な呪霊を彼女は真っ二つに斬り裂いた。
彼女は戦闘の際に、巨大な鎌が気に入っているようでそれをよく使う。以前に理由を聞いたら、死神っぽくってかっこいいからという回答と曇りのない笑顔が返ってきた。

「あと角煮まーん!」

彼女の背後から攻撃しようとした小さな子供くらいの大きさの呪霊を振り向きざまに真っ二つに斬り裂いた。
彼女の使う武器は、巨大な鎌だけではない。狭い場所での戦いの際は、ナイフ等を使うこともある。

「そんなに中華まんが食べたいんですか?」
「うん、食べたい!」

眩しいほどの笑顔が返ってきた。
確かに、肌寒くなってきた今日この頃は中華まんが美味しい季節になってきたとは思う。彼女の様に中華まんがどうしても食べたいというわけではないが。

「あとね、デザートに焼き芋と鯛焼きも食べたい」
「デザート重すぎじゃないですか?」
「そうかなー」
「……というか、食べすぎでは?」
「いっぱい動いたから大丈夫!」

先程祓った呪霊が最後だった様だ。呪霊の気配はもうない。
彼女の手から巨大な鎌は既になくなっていた。文字どおり何も持っていない。どこにいったのかといえば消したのだ。
彼女は、元々神という存在だったモノに寄生されている。信仰が薄れ力が弱まり形すらも分からなくなり、あとは消えるだけの存在だったそれがたまたま通りがかった彼女がまだ母親のお腹の中にいた時に寄生したのだそうだ。
彼女は、自身に寄生している形すらも分からなくなり黒い影の様なそれを好きな武器に変形させて戦う。それを出して武器に変形させるのも消すのも彼女の自由だ。それが彼女の術式である。
寄生しているため彼女から離れると途端に消えてしまうため飛び道具は使えないらしい。
そういったモノに寄生されている感覚というものは一体どういったものなのか想像し難いが、彼女自身は特に気にしていない様だった。

「ねえナナミンは何食べるの?」
「え、何って?」
「中華まん」

どうやら任務帰りに中華まんを食べることは既に決定事項らしい。

「何でもいいですよ」
「じゃあお店に着くまでに決めておいてね」

帰ろう、と歩き出した彼女の後へと続く。
再び中華まんの名前を次々と口にしながら歩を進める彼女は楽しそうだ。
もしも、彼女が元々神だったというモノに寄生されていなければ呪術師の世界に足を踏み入れることはなかったのかもしれない。
呪いという薄暗いものとは縁のないところで、持ち前の明るさで沢山の友人達に囲まれて笑って過ごしていたのだろうなと思う。彼女には陽のあたる場所がよく似合う。


2019/12/16

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