現在進行形で迷子中である。
任務中に逃げる呪霊を追いかけていたら、山の中にいた。
呪霊は祓い終えたもののこれでは帰れない。連絡を取ろうにも今日に限ってスマートフォンを忘れてきてしまっている。こんな時に限っていつも持ち歩いているスマートフォンを部屋のテーブルの上に置いてきてしまった自分にはほとほと呆れてしまう。
なんだか今回と似た様なことが昔にもあったなあと思いながら、思わず溜息を漏らした。
おまけに先程までは夕日がさしていたが、今はとっぷりと日が暮れてしまい真っ暗だ。墨を塗りつぶした様な真っ黒な空には星々が煌めいている。山の中ということもあり、街中で見るよりも星がよく見えて綺麗ではある。
こうなったら天体観測でもしながら誰かが探しに来てくれるのを待とうかと思ったところでふと思い出した。
夜の空で方角を確認する方法。北極星だ。北の空で輝くその星を見つければ方角が分かる。
そして、北極星の見つけ方は北斗七星の柄杓の底から直線で約五倍距離のところにある輝く星こそが北極星だ。
私達が最初にいた場所は、背後に太陽が沈んでいっていたのを覚えている。そこからどの方向に進んで山の中まで来たのかは分からないが現在地より大体西の方にいたと推測する。
であれば、西の方向に歩いていけばどこかで私を探してくれているであろう一緒の任務だった彼に出会うことが出来るはずだ。夜空を見上げ北斗七星を探す。そこから北極星を見つけ北の方向を確認し、西へと歩を進めた。
街中よりも星が煌々と輝いて見えるとはいえ街灯があるはずもない山の中は暗い。聞こえてくる音は風で木々が揺れる音や動物か鳥の鳴き声くらいだ。心細くないといったら嘘になる。それでも歩を進められるのは、彼が必ず探しに来てくれると信じているからだ。
暗闇の中を歩き続け、暫く経った頃に前方に明かりが見えた。ゆらゆらと動いているそれはこちらにだんだんと近付いて来ている。もしかしたら、探しに来てくれた彼か補助監督の誰かかもしれないと足早になる。
ようやくその明かりに照らされる位置まで近付いたところで名前を呼ばれた。

「名前?」

スマートフォンのライトを懐中電灯代わりにしてこちらに向けているのは紛れもなく彼だった。

「ナナミンー!会いたかった!」

やはり探しに来ていてくれたことへの嬉しさと彼に出会えたことに安堵して、勢いよく抱き着くとしっかりと受け止めてくれた。

「よかった!やっぱりこっちの方角で合ってたんだ」
「方角?よく分かりましたね」
「うん、北極星を見つけてそれで分かったよ」
「成る程」
「ナナミンのお陰だよ」
「え?」
「学生の頃に、北極星の見つけ方教えてくれたでしょ?」
「ああ、そういえば……ありましたね。覚えててくれたんですか」
「もっちろん!」

私は特別星座に詳しいわけではない。
そんな私が、北斗七星を見つけられてそこから北極星を探せるのは学生の頃に彼に教えてもらったことがあったからだ。もし、あの時教えてもらっていなかったら私は未だ山中を彷徨っていただろう。

「ありがとうナナミン」
「どういたしまして。まさかこんな風に役立つとは予想外でしたね」
「そうだねー」

戻りましょう、と彼に手を引かれ歩き出す。
途中彼はスマートフォンで別の場所で私を探している補助監督へと連絡していた。

「ああ、そうだ名前……何度もスマホに連絡したんですが何故出なかったんですか?電波は入りますよねここ」
「あー……えっと、あのね……今日スマホ忘れて来ちゃって……えへへ」

誤魔化す様に笑ってみたが、彼からは盛大に呆れた溜息が返ってきた。

「……あのレベルの呪霊相手ならアナタなら問題ないこととおそらく追いかけて行った後迷子になるところまでは予想が出来ましたが、まさかスマホを忘れていたところまでは読めませんでした」
「えーっと……私も予想外だった」
「本当にこちらの予想を尽く裏切ってきますよね。まあ……怪我をしていないようで安心しました」

そう言って静かに微笑んだ彼を見て緩む頬を必死に堪えるが、あえなくそれは簡単に彼に見破れてしまった。
家に帰ってテーブルの上に置き忘れられていたスマートフォンを確認すると、彼からの着信とメッセージがたくさん表示されていて随分と心配させてしまっていたことが分かる。心配させてしまったことには申し訳ないが、それよりもこんなにも私のことを心配してくれていたことへの嬉しさの方が勝ってしまった。


2019/12/3
タイトルは診断メーカーから

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