※学生時代


とある日曜日、寮の共有スペースを通りがかったら家入さんが一人ソファーに座って携帯電話を弄っていた。
別に珍しくもないのだが、妙に物静かな気がしてしまうのは彼女の姿が見えないからだ。
日曜日のこんな風景には、大抵彼女が家入さんの向かい側のソファーに座り目の前のテーブルに大量のお菓子を広げていることが多々あった。今日はそんな彼女の姿がない。
そういえば今日は午前中から彼女の姿を見かけていない様な気がする。
学年が違うのだから見かけない日があるのは当然なのだが、ここは人数が少ないこともあり違う学年でも見かけない日があまりないことと、自分はすっかり彼女に毒されてしまっているということを実感してしまう。
私の存在に気付いた家入さんはこちらに来いと手招きをしてくる。
素直に近付くと家入さんは口を開いた。

「名前なら今日は幼馴染の高校の文化祭に行っていないよ」
「はい?」
「安心しろ、女子校らしい」
「……は?」
「気になるかと思って」
「……別に気になりませんよ」
「そうか」

家入さんは携帯電話に視線を落とし何やら操作をすると、こちらに画面を見せてきた。

「ほら、名前と幼馴染だ。お互いの制服を交換して着てみたってさっき送られてきた」

画面には、彼女の幼馴染の高校の制服を着た彼女と高専の制服を着た彼女の幼馴染が仲良さそうに写っている。
私と同じで、呪術師の家系ではない彼女は中学までは一般の中学で過ごしている。幼馴染とは幼稚園の頃から一緒だったと以前話していたのを思い出した。
より長く彼女と過ごしてきた幼馴染と一緒だからなのかそれとも制服を交換しているからなのか携帯電話の画面に写っているのは間違いなく彼女であるのに、普段の彼女とは少しだけ違って見えた。

「ちなみに名前は、高専に来なかったら幼馴染と同じ高校に進学する予定だったらしい」
「それがどうかしたんですか?」
「もしそうだったら、名前のセーラー服姿が見放題だったかもしれない」
「そもそも名前が高専に来ていなかったら出会っていないでしょう」
「そうか?」
「……」
「私はそうは思わないよ。きっと出会っていたさ……」

そう言うとこちらに向けていた携帯電話の向きをくるりと変えて、慣れた手つきで操作をすると送っておいたと一言。

「はい?」

何がですか、と告げる前にポケットに入れておいた携帯電話の着信音が鳴る。
取り出して携帯電話を開いて確認すれば、今しがた見せられた彼女と彼女の幼馴染の写真が添付されていた。

「……何故?」
「欲しいのかと思って。いらないなら消せばいいだろ」
「……」

この人は、私が彼女が写っている写真を消せるはずがないことを知っていてそんなことを口にする。
本当に一つ上のこの学年は性格に難がある先輩ばかりだ。それは勿論彼女も含めてということになる。
とりあえず画面に表示されている彼女と彼女の幼馴染が写っている写真を保存して携帯電話を閉じた。


2019/09/29

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