彼女と恋人同士になってから数日後の出来事である。
お互いに休日で、私の部屋へ遊びに来ていた彼女へある物を手渡した。
彼女は手渡されたそれと私の顔を交互に見比べると驚きの声をあげた。

「えっこれって……!?」
「合鍵です」
「ナ、ナナミン……お家の鍵とか大事な物をこんなに容易く渡していいの!?」
「アナタになら構いませんよ」
「ほ、ほう……ちょっと信用しすぎでは?」
「何を今更。昨日今日の付き合いではないでしょう。それに、また駅でずっと待たせておくわけにはいかないですからね」

そう言うと、彼女からうぐっという鈍い声が聞こえてきた。
先日のことである。
終電でいつもの様に最寄り駅へと着くと、そこで彼女は待っていた。呪術師の任務を終え、私に会いに来たらしいのだがマンションに行ってみたものの私がいるはずもなく仕方がないので駅でずっと待っていたというのだ。
連絡をくれればいいものを言えば、仕事の邪魔をしたらいけないと思ったからと返ってきた。
今後も、毎回そんな風に彼女を待たせるわけにはいかないので合鍵を渡すことにしたのだ。何なら彼女が恋人になったあの日に渡しておけばよかったとすら思う。

「いつでも自由に来て構わないので、アナタが持っていてください」
「わ、分かった。……えへへ、ありがとう。大事にするね」



深夜帯に帰るのも既に慣れてしまっていた。
いつもと違ったのは、ドアを開けるとそこは暗闇ではなく明かりが灯っていることだった。
そして、ドアが開いた音で私が帰って来たことに気付いた彼女が出迎えてくれた。

「ナナミンおかえりなさーい!」

帰宅して、誰かに迎えられるのはいつぶりだろうか。
その迎えてくれる誰かが彼女であれば尚のこと嬉しいと思う。
それに、彼女はあまり夜に強くはない。時刻は既に一時を過ぎている。普段ならおそらく寝ている時間だろう。
けれど、今日はこうして私の帰りを待っていてくれていた。
玄関に立ちっぱなしでいる私を不思議に思ったのだろう彼女は首を傾げながら私の名前を呼ぶ。
そんな彼女が愛おしくて、引き寄せると抱き締めた。

「わっ!?」
「名前……」
「は、はい!」
「ただいま」

おかえりなさい、と再び口にする彼女を抱き締める腕に力を込めた。


2019/09/19

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