夏が終わる。日暮れも大分早くなってきた。
そんな頃、祭りの時期は終わったと思っていたが、珍しくやっているところがあった様だ。
任務の帰りにたまたま通りがかった道に鬱蒼とした森に覆われた神社があった。こんな神社がここにあっただろうか?という疑問が少し沸いたが私が知らなかっただけかもしれない。
境内から聞こえてくる賑やかな祭りの音に、隣を歩いていた彼女が反応する。
間違いなく祭りの出店目当てだということはよく知っている。
行ってみようと言う彼女に誘われるがままに、神社の入り口に立っている赤い大きな鳥居を潜った。
するとそこには、道の両端にずらりと出店が並んでいた。道を歩く人々の数も多い。
彼女は、どの出店に行こうかときょろきょろと見渡している。
そうして少し歩いていると突然彼女の足が止まった。

「どうしたんですか?」

不思議に思い彼女を見ると、彼女は歩いて来た道の方へ振り返っていた。まるで誰かに背後から呼び止められた様に。
そして、彼女の口からとある人物の名前が発せられた。
それは彼女の死んだ幼馴染の名前だった。彼女の幼馴染は学生時代に呪詛師絡みのとある事件で既に亡くなっている。
何故その人物の名前がここで出てくるのか。彼女が見ている先にいるそれが幼馴染だとでも言うのだろうか。
私には、それが彼女の幼馴染には見えない。黒い影の様な何かにしか見えないのだ。
呪霊かと思ったが気配が違う。よく分からないものとしか表現が出来ない。
一つだけ確かだと感じることは、ここにいてはいけないということ。早くここから出た方がいい。

「名前行きますよ」

彼女の手を引く。

「えっナナミン何で!?だって***が……」

彼女は幼馴染の名前を口にしたのだろうが、私にはそれは到底人の名前には聞こえなかった。
口で表現するには今まで聞いたことのない様な言語というより音といった方が正しいそれを何と言ったらいいのか分からない。
彼女の手を引いて入って来た鳥居の方へと引き返す。その際、進行方向にいるよく分からない何かとすれ違ったが、特に反応はなかった。追いかけてくる気配も攻撃してくる気配も感じられない。
ただすれ違いざまに、少しだけひんやりとした冷気を感じた様な気がした。
待って、という彼女の手を引いて足早に鳥居を目指す。
ちらりと後ろを振り返ってみたが、やはり何かは追いかけては来なかった。

「ねえ!ナナミンどうしたの?ねえってば!」

理由も言わず足早に引き返す私に、彼女は不安そうな表情で詰め寄ってくる。

「……落ち着いて聞いてください」
「え?」
「名前にはあれがアナタの幼馴染に見えたのでしょう」
「え?うん」
「私にはあれはよく分からないものにしか見えなかった」
「え、何それ……?」
「分からないとしか……とりあえず早くここを……」

続く言葉は、彼女の言葉によって遮られた。

「ねえ、よく分からないものってこういうものだった?」
「は……?」

何を言っているのかと彼女に視線を向けると、そこにいたのは彼女ではなかった。そこにいたのは、先程のよく分からない黒い影の様な何かだった。
私は間違いなく彼女の手を掴み、彼女から手を離してなどいないのにそこに彼女はいない。
彼女は一体どこに行ってしまったのか?私が今掴んでいるこれは何なのか?手を離そうとしたが、何となくこれを離してはいけない気がして緩めかけた手に再び力を込める。
ここで、手を離してしまったら彼女に二度と会えなくなる様な気がしたのだ。



「ナナミン!ナーナーミーンー!」

彼女の声ではっとした。
声のした方へ視線を向けると、心配そうな顔で見上げている彼女がいた。

「……名前?」
「大丈夫?いきなりぼーっとしちゃって、何も反応ないから心配したよ」
「え、名前?」
「何?」
「名前ですよね?」
「私以外の何に見えるの?本当に大丈夫?」

今、目の前にいる彼女は間違いなく彼女だ。
では今しがたのあれは何だったのか。まさか白昼夢だったとでもいうのだろうか?
それとも、幻覚を見せる呪霊の仕業かとも思ったが、そうだったら私も彼女も気配で分かる。ここには、そんな気配は感じられない。
不思議そうな顔をしている彼女の頭へと手を伸ばし撫ぜる。

「大丈夫ですよ」
「よかった!」
「アナタこそ無事でよかった」
「え?」
「ああ、いえ、こちらの話です。気にしないでください」
「そう、なの?よく分かんないけど大丈夫ならよかった。早く行こー」
「え、行くってどこにですか?」
「もー話聞いてなかったの?この時期に珍しくお祭りやってるから寄ってみようって話してたでしょ?ほらそこの神社で……」

彼女がすっと指を差す。
その方向を見て驚愕する。そこには、先程の白昼夢で見たあの大きな鳥居が確かに存在していた。


2019/09/19

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