※学生時代


海に着いて真っ先にはしゃぎ回っていたのは、海に行こうと言い出した悟と名前の二人だった。
ビーチパラソルをレンタルし、レジャーシートを敷いたりとそういう準備をしている間に既に二人は海に入ってはしゃぎ回っていた。
砂浜の上に放置された彼女の荷物を呆れた様にレジャーシートの上へと移動させていたのは七海である。彼女はおそらく後で七海に軽く小言を言われることになるだろう。

少し海で泳いだ後に、ビーチバレーをしようと相変わらずはしゃぎ回っている悟と名前が言い出した。
硝子は少し休憩したいからとビーチパラソルが目印になっている荷物が置いてあるレジャーシートの所へ戻っていた。
そして、荷物番をしていた七海が無理やり引っ張られる様に悟に連れて来られ、ビーチバレーに強制参加させられた。
チームは、砂の上に書いたあみだで決め、私と名前、悟と七海になった。露骨に嫌そうな顔をする七海を見て思わず苦笑してしまう。

「傑ー、かき氷のために絶対勝とうね!」
「かき氷?」
「うん、負けたチームが全員にかき氷を奢ることになってるから」

いつの間に決まっていたのか?予想するまでもないが、彼女と悟の間で勝手に決まったのだろう。
負けられないと意気込む彼女の足を引っ張るわけにはいかないと思った。

**

「やったー!勝ったー!」

悟のブロックに阻止されるかと思ったが、その横に見事にフェイントを決めた彼女が嬉しそうに飛び跳ねた。

「傑ー!」

両手を上げてハイタッチを求めてくる彼女の両手に自分のそれを合わせた。ぱんっと乾いた音が響く。
隣のコートでは、不満を漏らす悟とそれにそっけなく返答する七海の姿があった。
そんな二人には目もくれず彼女は、暑いからまた泳いでくると海へと向かっていく。

「七海さあ、お前名前のこと気にしすぎだろ」
「は?何言ってるんですか?別に気にしてませんよ」
「はあー?気にしてるだろ。ボールより名前のこと見てた回数の方が多かったじゃん」

何やらごちゃごちゃと言い合っている二人に、私達も泳ぎに行こうかと声をかけ彼女の後を追う。
海へと向かう途中も二人はごちゃごちゃと言い合っていた。というか、主に悟が一方的に七海に絡んでいると言った方が正しい。

「見過ぎなくらい見てたじゃん名前のこと」
「別に見てません」
「へえー」
「……」
「あーでもさ、前から思ってたけど、名前ってやっぱ着痩せするタイプだったよな。水着でよく分かったわ。七海もそう思うだろ?」
「ええ……」
「……」
「……」

ついつられて返事をしてしまったのだろうそれに気付いてさっと顔が青くなった七海と、対照的にニヤニヤと笑みを浮かべる悟がいた。

「名前ー!」
「ちょっと!五条さん!?」

ざぶざぶと海に入って行き、泳いでいる彼女の名前を呼んだ。
嫌な予感しかしないのだろう七海が、悟を止めようとするがこうなったらもう無理だろう。
名前を呼ばれた彼女は泳ぐのをやめると、悟の方へ近付いていく。

「何ー?」
「七海がさー、名前のこと着痩せして見えるって言ってたよ」
「え……」
「名前誤解です。違いますよ」
「じゃあ私今日ずっとそんな風に思われてたの知らないで今まで過ごしてきたの……?」
「名前落ち着いてください。誤解です、いいですか……て、聞いてますか?」

彼女は最初驚いた表情をしたが、段々とその顔色は青ざめていく。
七海が必死に誤解だと言っているが、それは彼女の耳へ届いていない。
彼女の様子を見るに、絶対にこちらが想定していた意味とは違う意味で悟の言葉を受け取ってしまっている。

「み、見苦しくてごめんね……!あと、試合に勝ったけど私の分のかき氷いらないから……」

絞り出した様な声でそう言うと、海から出て硝子の元へと足早に向かって行ってしまった。
彼女の言葉から想定すると、着痩せして見えると言われたのを脱いだら太っているという意味に思い込んでしまっている。しかも、楽しみにしていたかき氷までいらないと言うのだから余程ショックだったのだろう。

「悟のせいだろ」
「まさかあんな反応するとは思わねぇじゃん。ま、どんまい七海!」
「……」

悟は、ぽんっと七海の肩を叩いた。
七海の眉間にはいつもの三割増しくらいの皺が刻まれていた。不機嫌さを隠す気はさらさらない様だ。
これには流石に七海が不憫になった。彼女の誤解を解く手助けくらいはしてやろうと思う。
その後、暫くの間彼女の誤解を解くのに大分苦労をしている七海の姿を見かけることが度々あったのはまた別の話だ。


2019/08/25

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