ただいまーと帰宅し、リビングへ入って来た彼女の手にはコンビニの袋が下げられていた。
おかえりなさい、と迎えれば彼女は嬉しそうに笑みを浮かべた。
いつの間にか当たり前の様になっている一連のやり取りだが、そういえばいつからだろうか?彼女がここに来るようになって、お邪魔しますからただいまに変わったのは。
そのタイミングは覚えていないが、まるで自分の家の様にただいまと言って来てくれることが嬉しくないと言ったら嘘になる。そして、おかえりなさいと彼女を迎えることで彼女の嬉しそうな表情を目にして安堵する。

「ナナミン、アイス食べよー」

彼女はにこにこと何やら機嫌が良さそうな笑みを浮かべて、ソファーへ座っていた私の隣へと腰を下ろした。
テーブルの上にコンビニの袋からカップアイスが二つ並べられる。よく見ればどちらも違う味だ。蓋にクッキー&クリーム味とストロベリークリーム味と記載されている。
それを二つだけ買ってきた彼女に疑問を覚えた。どちらも違う味なら、どちらも食べたいからとそれぞれ二つずつ彼女と私の分を買ってくるのがいつもの彼女だ。
なのにここには、違う味のカップアイスが二つだけある。
私の考えていたことが通じたのか彼女は説明してくれた。

「今日暑かったからアイス売れたんだろうねー。どっちも最後の一つしか残ってなくてね、仕方なく二つだけ買ってきたの……」
「成る程」
「ということで、ナナミンの一口ちょーだいね!私のもあげるから」

ストロベリークリーム味と記載されている方の蓋を開け、コンビニで貰ったアイス用のスプーンで掬うとこちらへ差し出してくる。

「はい、あーん」

差し出れた一口分のアイスを拒否する理由もないので素直に口へと含んだ。
おそらく道中のコンビニで買って来たのだろうアイスは、ここまで来る間に程よく溶けていた。口の中に甘味と冷たさが広がり、すうっとあっという間に溶けていく。

「じゃあ、次こっちね」

今度は、クッキー&クリーム味の蓋を開けようとする彼女の手を止める。

「待ってください。こっちは私にやらせてくれませんか?」
「え?」

彼女と同じ様にカップアイスの蓋を開け、アイス用のスプーンで一口分を掬うと彼女の口元へ近付ける。

「どうぞ」
「えっあっそういうこと!?えへへ、なんか恥ずかしいなー」

彼女は照れながらスプーンに乗っているアイスを口に含んだ。
今更何を照れることがあるのだろうかと思うが、彼女に言わせると無理なのだそうだ。

「んんー美味しいー!」
「こちらもどうぞ」

彼女が先に私に食べさせてくれたストロベリークリーム味のアイスをスプーンに掬って、彼女の口元へ近付ける。

「こっちも美味しい!」
「それはよかった」
「うーん、どっちも美味しいからこれは迷うけど……」
「ストロベリークリームの方でしょう?」
「えっ何で分かったの!?」
「そりゃ長い付き合いですから」
「えへへ、そうだねー。じゃあ、ストロベリークリームの方いただきまーす」
「どうぞ」

彼女はストロベリークリーム味のカップを持って食べ始めた。
一口食べては幸せそうな表情をする彼女を横目に、私もクッキー&クリーム味のアイスを食べ始める。
隣で幸せそうにアイスを食べる彼女にふとキスをしたくなった。不意打ちに弱い彼女のことだからきっと驚いて慌てるのだろう。その光景を何度も目にしているが飽きることはない。

「名前」
「んー?」

素直にこちらを向いた彼女の頬に手を添えて口付けた。

「ん!?」

彼女の唇をひと舐めして離れると、やはりそこには驚いた顔をして固まっている彼女がいた。

「甘いですね」
「そ、そりゃそうでしょ!」

びっくりした、と言いながら落ち着きを取り戻そうとしているかの様に彼女はアイスへと向き直るとまた一口、口へと含んだ。

「名前」
「な、何?」
「こっち向いてくれませんか?」
「何で?」
「ダメですか?」
「……」
「名前」
「……もー仕方ないなあ」

観念した様に再びこちらを向く。
まだ落ち着かないのだろう視線を斜め下に向けている彼女に再度唇を重ねる。それは食べかけのアイスよりひどく甘い気がした。


2019/08/19

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