寒い。この真夏に寒いというのはおかしいということは分かっている。けれど、寒いものは寒い。
何故寒いのかといえば、エアコンの設定温度を下げられるところまで下げているからである。ならば設定温度を上げればいいのではないかと思うだろう。それは最もだが、これには理由があるのだ。
その理由とは、外と同じ様に暑いと彼にくっつけないからである。逆にいえば寒ければ彼にくっつける口実が出来る。
そうまでしてと思うかもしれないが、私はそうまでしてくっつきたいのだ。
暑いのにベタベタとくっつくのはお互いのために遠慮したい。しかし、そうやって遠慮していたら夏の暑い間は彼にくっけないということになる。それは流石に無理だ。いつもいつもくっついているわけではないが、甘えたくて仕方がない日というものはある。そう、それが丁度今だ。
だからこうして室内をキンキンに冷やして、彼が帰ってくるのを待っているのだ。

「ナナミン早く帰ってこないかなー」
「帰ってますよ」

ソファーに寝転がってゴロゴロしていたら、ふいに返ってきた彼の声に驚いて飛び起きた。
前にも似た様なことがあった気がする。

「えっ!?いつの間に!?」
「一応声はかけましたよ」
「気付かなかった……。おかえりなさい」
「ただいま。それより、何でこんなに冷えてるんですか?」
「それはね……」

ソファーから立ち上がると彼の側に駆け寄る。

「寒い方がくっつけるからー!」

抱きつこうとしたら、両肩をがっしりと掴まれて阻まれた。

「何で!?」
「大分汗をかいているのでくっつくのは入浴後にしてください」

そういう理由なら仕方がない。
逆の立場だったら私もそうすると思う。いきなり両肩を掴まれて阻まれてしまったから驚いてしまった。
嫌がられたわけではなくて安心した。

「分かった。じゃあ待ってるね」

彼から離れソファーに再び座ろうとしたところで名前を呼ばれる。

「名前」
「ん?」
「一緒に入りますか?」
「……えっ!?えっ!?」

わたわたと慌てる私を見て彼の表情が少し緩む。こういう時のそれは絶対に面白がっている。

「今更そんなに慌てる必要もないでしょう」
「だ、だって、いきなりびっくりする!今日一番びっくりした!」
「随分と大袈裟な……。で、どうします?」
「えっ遠慮します!その……さっき入ったから大丈夫!」
「そうですか。それは残念ですね」

そのまま自室へと向かって行く彼の背中を見送る。
こうやって不意打ちをしてくるところが本当にずるい。いつも私はその不意打ちに踊らされてしまう。
キンキンに冷やした室内は、先程までは寒かったというのに今は寒く感じない。というより、顔が熱い。


2019/08/13

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