※学生時代(本誌70話ネタバレあり)


いつも無茶振りをしてくる先輩だとは思っていたが、今回もまた随分と無茶振りをしてきたものだ。
どう考えても一年だけで務まる様な任務ではない。自然と眉間に力が入るのを感じた。
ガヤガヤと賑わう空港内を見回していると、ふいに聞き覚えのありすぎる声が背後から聞こえてきた。
ナナミン、と私のことを呼ぶのは彼女しかいない。振り向くとそこには、アロハシャツにショートパンツ姿の彼女がにこやかな笑みを浮かべて立っていた。

「お疲れ様ー!はい、これ差し入れね」

差し出された袋を受け取ると、ドーナツと飲み物が入っていた。
甘いものを差し入れに持ってくるのが彼女らしい。

「ありがとうございます」

礼を言い受け取ると彼女は満足そうな顔をした。
しかし、何故彼女がここにいるのだろうか?あの先輩二人と一緒に星漿体の護衛についていたはずだ。

「ところで、何でここにいるんですか?」
「こき使われてる後輩を労ろうと思って。先輩っぽいでしょ?褒めて!」

偉いだろう?とドヤ顔で言ってくるが、彼女の手には大量のお土産が入った袋が下げられている。

「そっちが本命でしょう……」

お土産が入った袋を指すと、慌てた様に背後に隠した。

「そ、そんなことないですうー」

隠したところで既に遅すぎる。それにその量を隠すのは到底無理である。

「あっちで沖縄限定のカントリーマ○ム売ってましたよ。買いましたか?」
「ふっふっふ、当然!既に購入済みだよー」
「……ほら、やっぱりお土産目当てじゃないですか」
「あっ……!?」

思わず溜息が漏れる。

「真面目に任務してください」
「してるもん……」
「アロハ着てですか?」
「傑も着てたよ」
「……」

頭が痛くなってきた。
彼女の格好もだが、この先輩達はどう見てもすっかり観光を楽しんでいる。
実力は分かっているが、それでも緊張感というものはないのだろうか。いや、実力があるからこその余裕というものなのか。
そういえば、と彼女は思い出した様に口を開いた。

「灰原くんは?」
「ああ、あっち側にいますが……」
「反対側かー。じゃあ私灰原くんにも差し入れしてくるね」

そう言って、去って行く彼女の後ろ姿に声をかけそうになって思い止まる。
そして、もう少し上手いこと会話を引き延ばせれば、まで考えて自分は一体何を考えているのかと冷静になった。
今はそんなことを考えている場合ではないというのに、彼女にはどこまでもペースを乱されてしまう。再度溜息が漏れた。


2019/08/06

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