※学生時代


太陽は沈みかけており、空に赤みが差してきたとはいえまだ蒸し暑さが残る。
今の季節、仕方のないことなのだとは分かっているが、身体に堪えないかといえば嘘になる。任務よりもこの暑さの方が疲れるというのは、隣を歩いている彼女の言葉である。アイスかかき氷を食べないとやっていけないというのも彼女の言葉だ。
何故、任務終わりに暑い中をわざわざ歩いているのかといえば、高専までの道中にあるとある神社でお祭りをやっているらしく、その情報を聞きつけた彼女が帰りに祭りに行きたいと言い出したためである。どうしてもかき氷が食べたいらしい。

「私はね出店にあるかき氷全種類制覇するよ」

真剣な顔で彼女はそう言い切った。
かき氷のシロップは、全部同じ味で違うのは匂いと色だけだということを彼女に言ったら酷くがっかりしそうな気がしたのでここは黙っておくことにした。

「あ、でも知ってる?かき氷のシロップ全部混ぜると汚い色になるんだよ」
「名前……」
「ん?」
「一体何をやってるんだ……」
「え、だって一回はやってみようって思ってやるじゃん?傑、まさか……ないの?」

誰しもやったことがあるのは当然のことの様に言われても困る。
信じられないという顔で見られても、やったことがないものはない。

「ないね」
「……そっかあ、ないのかあ」

同情を含んだ様な哀れんだ視線を向けられた。
そこまでのことなのか。よく分からない。これが、数ヶ月前の中学までは非呪術師の世界で生きてきた違いなのだろうか。いや、絶対違うと思いたい。

「もしかして傑はドリンクバーのドリンクも全部混ぜたことがないの……?」
「……ないね」

今度は衝撃を受けた様な顔をされた。
何故、全種類混ぜたがるのか?私には分からない。

「じゃあさ、今度ドリンクバーあるところに行ったらやろっか!」

ナイスアイデアだと言わんばかりの笑顔を向けてくる。
やってみたいとは一言も言っていないのに何故そうなるのか。彼女の言動はよく分からない。それが面白くないといえば嘘になってしまうのだが。

「いや、遠慮しておくよ」

やんわりと断れば、彼女は残念そうに、えーっと声をあげた。
目的地の祭りをやっている神社まではあともう少しだ。


2019/07/24

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