最近、傑の様子が変だ。
変というか、何か思い詰めているというか話しかけづらい雰囲気を醸し出していると言ったらいいのか。とにかく、何かにつけて鈍いと言われる私でもいつもと違う様子だということが見て取れるくらいであるのだから、よっぽどなのだろうと思う。
一緒の任務に行った帰りのことだった。
高専まで歩ける距離だったこともあり、並んで歩いていた。
無言のまま歩き続けるのは私の性格上無理であるため、思いついたことを色々喋ってみるのだが、いつもならそこから会話が続くのに今日は全く続かない。
彼からは一言二言返ってくるだけで、会話が終わってしまう。彼と話していて話しづらいと感じたことはこれまでなかった。こんなに会話が続かないことは初めてかもしれない。
ちらりと隣を伺ってみたが、やはり難しそうな顔をしていて何か思い詰めている様だった。
どうしたものかと考える。私だったらケーキやパフェ、甘いものを食べに行こうと言われたらものすごく喜ぶし元気になるが、彼がそれで喜ぶんで元気になるかといえば多分違うと思う。それに、気軽にそんなことを言える様な雰囲気ではない。
こういう時は一体どうすればいいのだろう?考えれば考えるほど何も思い浮かばず、おそらく軽く唸っていたのだろう。

「名前、どうかしたのかい?」

不思議そうな顔でこちらを見てくる。
思い詰めている本人に逆に心配されてしまった。

「えっ……な、何でもない!」

慌てて誤魔化してみるが、上手く誤魔化せている自信が全くない。
その証拠に彼はまだ不思議そうな顔をしている。が、次の瞬間にはふっと軽く笑みを漏らした。
最近、本当にずっと何か思い詰めた様な顔をしていたから笑った顔は久しぶりに見た気がする。

「久しぶりに見た……」
「ん?」
「笑った顔」
「え?……ああ、そうかもね。名前が相変わらず嘘を吐くのが下手だと思ってね」
「は、はあー!?そ、そんなことないですー」
「そうかい?」
「そうだよ」
「へえー」
「絶対信じてない顔だ!くっそー、いつか誰にも見抜けない嘘を吐けるようになってやる!」
「絶対無理だろ」

けらけらと笑いを漏らす。

「名前のお陰で元気が出たよ」

ひと通り笑い終えるとそう口にした。
元気が出たのならよかったが、少し笑いすぎではないのだろうかと思う。

「名前、一つ聞いてもいいかい?」
「いーよー」
「もしも……私が非術師を殺したとしても、その後も友達でいてくれるかい?」

いきなり何を言い出すのかと驚いた。
まじまじと彼の顔を見てしまったが、冗談を言っているわけではないらしい。
笑っていたのが嘘の様に真剣な顔をしている。
呪術師をしていれば、本人が望まなくとも非呪術師を殺さなければならない時があるだろう。元々、そういう任務ではなかったとしても成り行き上そうなってしまったということがあるかもしれない。いや、ある。
だからといって、友達を辞めるのかと言われたら答えはノーだ。けれど、わざわざそんな質問をしてくるということはきっと違うのだろう。本人が望まないとか任務の成り行き上とかそんな話ではなくて、意図的に個人の意思を持って殺した場合ということなのだろう。

「うん、友達だよ」

はっきりと彼の目を見て答えた。
仮に個人の意思を持って非呪術師を傑が殺したとしても、何の理由もなく殺すとは思えない。私が理解出来るかどうかは別として、おそらく何らかの理由があるはずだ。
殺人が趣味とかそういうわけではないのだと思う。

「……立場的に敵対することになったとしても?」
「うん。だって、何か理由があるんでしょ。傑が理由もなくそんなことするとは思わないよ」
「……」
「立場とか関係なく友達だよ。そうだなー、もしも立場的に敵対することになったとしても、何か話したくなったら友達として話しにおいでよ。私も友達として話を聞くよ」
「……ありがとう」

妙に細い声だった。
こんな彼の声を聞いたのは初めてかもしれない。
もしもの話をしているのに、そのもしもが現実になってしまう日が来るのではないかと言い知れぬ不安を感じた。

「もしもの話だからね?傑と敵対するとか絶対嫌だからね!」
「ああ、分かっているよ」

寂しそうに困った様な笑みを浮かべる彼に私の不安は消えることはなかった。
そして、この時の不安はやがて現実のものとなる。

**

夕方、コンビニにアイスを買いに行った帰りにふと昔のことを思い出した。
何故このタイミングで思い出したのかは分からないが、あの時のことをはっきりと覚えていることに少し驚いた。
絶対に敵対するのは嫌だと言ったのに、現状はどうだ?見事にそうなってしまっている。あの時感じた不安は現実となってやってきてしまっている。
しかし、あの時の会話を覚えているのだろう彼が高専から追放された後も度々私に会いに来るのはそういうわけかと妙に納得してしまった。よく覚えているものだと思う。そういえば、昔から彼はそういうところはあった。
ふと、現在のお互いの立場など関係なく話がしたくなった。くだらないことでいい。昔の様に他愛のない会話がしたい。
ポケットに入れていたスマートフォンを取り出し、連絡先の画面を開く。
画面をスクロールして、表示された夏油傑の文字を見てはっとする。
私は今の彼の連絡先を知らないのだ。そこに登録されたままになっているのは、彼が高専を追放される前、学生の頃に教えてもらった連絡先だ。
繋がることのない連絡先を画面に表示させたまま思わず溜息を落とした。


2019/07/21

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