何があったのか原因は分からないが、彼女の様子がおかしいことは明らかだ。
朝起きてからずっと私から離れようとしない。彼女からくっついてくることは珍しいことではない。しかし、それが移動する時も含めてずっとくっついたまま片時も離れないというのは、もしかしたら初めてではないのだろうか。
どうしたんですか?と聞いても、何でもないという回答しか返ってこない。流石にお手洗いや着替える時は離れてくれたが、またすぐにくっついてくる。
彼女を無理矢理引き剥がすことは出来るが、出来ればそれはやりたくはない。かといって、この様子では素直に離れてはくれないだろう。
困った。彼女がくっついていることが嫌なわけではない。特に用事がなければ、このまま一日を過ごしても構わないのだが、あいにくと後数分後には家を出ないと任務に間に合わなくなってしまうのだ。だから困っている。
出かける準備をして玄関まで来たが、やはりくっついたままである。なんとかそのまま靴を履いて後はドアを開けて出かけるだけなのだが、ここまできても彼女から離れてくれる気配は全く感じられない。

「名前そろそろ離れてくれませんか?」
「やーだー」
「名前」
「………………あと三十秒だけ」

さっきよりも三十秒短くなった。
最初は、あと三分、次があと二分、あと一分と段々と間隔が短くなってきている。
彼女も離れなければならないことは分かっているのだろう。けれども、離れてくれない離れられないということは、やはり何かあったとしか思えない。

「今日に限ってどうしたんですか?」
「……分かんない。分かんないけど、離れたくない。なんかやだ……」

私の腕に絡めていた彼女の腕に力が入った。
明確な理由があれば、それを解決してということもあるのだが、分からないけど離れたくないと言われてしまってはお手上げだ。
彼女が何か隠していて、それを誤魔化している様には見えない。仕方がないが、無理矢理引き剥がすしかないだろう。

「名前、顔を上げてくれませんか?」
「……」
「アナタの顔が見たいのですが、ダメですか」

なるべく優しくそう言えば、下を向いていた顔をゆっくりと上げてくれた。
同時に、私の腕に絡んでいた彼女の腕の力をも緩んだ。すかさず絡んでいた彼女の腕から自身の腕を抜くと、そのまま彼女の顎に手をかけた。
少し屈んでそっと触れるだけの短いキスを彼女の唇に落とす。

「すぐに帰ります。いい子で待てますね」

驚いたのだろう彼女はぽかんとした表情をしていたが、はっとすると何かを言いかけた。
言いかけたのだが、その唇をそっと人差し指で塞ぐ。

「行ってきます」
「えっずるい!……行ってらっしゃい」

それを聞いて、部屋を後にする。
そう、彼女の言うとおりにずるい手を使った。こうでもしなければ彼女は私から離れてくれなかっただろう。何度も言うが、仕方なくだ。
彼女は今日は休みで家にいる。任務帰りに彼女の好きなお菓子を買って、部屋に帰ったら思いっきり甘やかそうと思った。


2019/06/10

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