※学生時代


自室へと向かう途中、共有スペースの前を通りかかったのがいけなかった。正確には、通りかかったタイミングがいけなかった。
共有スペースのソファーを一人で占領していた五条さんに呼び止められ、無理矢理暇潰しに現在進行形で付き合わさせられている。めんどくさいことが目に見えていたので、勿論拒否をしたが無理だったのだ。
仕方なく五条さんの向かい側のソファーへと座っているが、先程から何か面白い話をしろと無茶振りをしてくる。いきなり面白い話をしろとは無茶振りにも程がある。いや、無茶振りをしてくるのは何も今に始まったことではなかった。いつもだった。
思わず、溜息を漏らしてしまう。この人の前だと自然とその回数も増える様な気がする。

「あっ七海、溜息すると幸せが逃げるって知ってる?」

その原因が自分であるということは露程も思わないのだろう。
再び溜息を漏らしそうになったところで、そういえば、と思い出した様に五条さんは話題を変えてきた。

「七海さあ、名前って動物に例えたら犬みたいだと思わない?」

何故、溜息の話から彼女を動物に例える話になるのだろうか。
共通点のない話題へと話が飛ぶのも今に始まったことではないのだが、それに慣れているかと言われればノーだ。話が飛びすぎてこの人と話をするのは疲れる。

「犬は犬でも小型犬だよね」

確かに彼女を動物に例えるのなら、五条さんが言うとおりに犬だとは思う。
言動等が犬っぽさを彷彿とさせる。

「まあ、そうですね」
「だろ?犬種はそうだな……パピヨンだね」
「いえ、ポメラニアンでしょう」

見事に意見が分かれた。
例えるならの話であって、ポメラニアンにそっくりというわけではない。あくまで例えるならである。
というか、正直パピヨンでもポメラニアンでもどちらでもいいのだが、何故か絶対にパピヨンだと目の前の五条さんは言い張っている。
いつもなら次々に話が飛ぶのだが、こういう時に限って話題がブレない。そろそろいい加減に自室に戻りたい。
と、そこへ噂をすれば何とやらと言うが、勝手に話題にされていた彼女が通りかかった。

「あっ二人で何してるのー?」

こちらに気付くと小走りで向かってくる。
動物に例えるなら犬の様だと話をしていたこともあって、それがまるで尻尾を振りながら駆け寄ってくる犬の様に見えた。

「ほら、パピヨンじゃん」
「どっちでもいいですよ」
「めんどくさがるなよ。ポメラニアンって言ってたろ」

パピヨン、ポメラニアンと犬の名前が聞こえた彼女は、好きな犬の話をしていたのだと思ったのだろう。

「えっ何々?犬の話?私はね、グレート・ピレニーズが好き!」

満面の笑顔でそう言った。
その笑顔から彼女が犬好きだということが分かる。
そこから彼女の実家で飼っている犬、グレート・ピレニーズの話になった。
会話の殆どが可愛いとモフモフしか言っていない様な気がしたが、突っ込まないでおくことにした。
先程までは、早く自室へと戻りたいと思っていたが、楽しそうに愛犬の話をする彼女をもう少しだけ見ていたいと思ってしまうのだから不思議だ。


2019/06/03

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