※学生時代


七海建人は意外とノリがいい。
堅物そうで真面目な人物に見えるが、私の悪ふざけにもなんやかんや言いながら付き合ってくれることが多い。だから、私もついつい勢いで声をかけることが多くなってしまうのだ。
さっきも、授業が終わり夕飯の前に散歩にでも行こうかと思い、高専の敷地内から敷地外へと続く道を歩いていたら偶然彼と出会った。
散歩に行かない?と声をかければ、意外にも肯定的な回答が返ってきた。てっきり、そんな暇があるならもっと他にやるべき事はたくさんあるでしょうとか暇なんですか?等、言われるのかと思っていたので、彼の意外な返事に少しだけ驚いた。

「息抜きも必要でしょう」

素直に少しだけ驚いたことを彼に伝えれば、そう返ってきた。
確かにそうだ。それは最もだと思う。人間誰しも息抜きは必要だ。
私は何かにつけて息抜きをしまくっているから、人より少しそれが多いかもしれない。けれど、それも私にとっては必要なことなのだ。切羽詰まって生きてるよりも、少し息抜きが多いくらいに生きていた方がよっぽどいいと私は思う。
高専の敷地内から出て暫く歩いた。
今は、河川敷の真っ直ぐな道を歩いている。ここまで、他愛のない話をしながら歩いてきた。主に一方的に話をしているのは私の様な気もしなくはない。適度な相槌とツッコミを入れてくれる彼との会話が心地よくてついつい喋りすぎてしまうのだ。

「名前は本当に話題が尽きませんね」
「えへへ、まあね」
「いえ、別に褒めたわけでは……」
「えっ違うの!?」
「はい」
「なんと……!?ん?えっあれ?」
「どうしました?」
「雨降ってきた」

頬に水滴が一粒当たったと思ったら、ぱらぱらと音を立てて雨が降り出してきた。
辺りを見渡しても、雨宿りが出来そうな場所は見当たらない。しかし、慌てる必要はない。散歩に出る前に何やら雲行きが怪しいと思っていた私は、トートバッグの中に折り畳み傘を入れてきたのだ。トートバッグの中からそれを取り出すと、二人の頭上に広げた。
傘へと落ちる雨はどんどん雨脚が強まっていき、さっきまで乾いていた地面を濡らしていた。土の匂いが辺りに充満していく。

「準備いいですね」
「そうでしょ?もっと褒めて!」
「……」
「えっそこで黙っちゃうの?」
「……」
「うっそでしょ!?」

無言。本当に黙ってしまうから、何か喋ってとぎゃあぎゃあと騒ぐ私に、堪えられなくなったのか彼はくつくつ、と静かに笑い声を漏らした。

「すみません、どういう反応をするのかなと思って」
「先輩を揶揄わないでくださーい」
「ああ、そういえば先輩でしたね」
「あっごめんごめん、私の勘違いだった!ナナミンと同級生だったね〜」
「冗談ですよ。ボケてくるのやめてください」

など、というやりとりを河川敷を歩きながらかつ私は片手で傘を差しながら行っているわけで、雨が降り出してきたのだからそうなるのは自然だとは思う。濡れたくはないし、傘を出したのも私なのだからそうなる。
だが、私と彼の身長差を考えてみてほしい。彼の身長を正確には知らないが、見たところ大きい。私と三十センチまではいかなくとも、多分そのくらいは違うのではないだろうか。そんな長身相手が濡れない様に、私は腕を伸ばし続けて傘を差している。
つまり、何が言いたいのかというとそろそろ私の肩と腕が限界を迎えそうなのだ。

「ねえナナミンお願いがあるんだけど……」
「何ですか?」
「もっと縮んでほしい」
「は?」

何を言ってるんだこいつは、という視線と呆れた溜息が降ってきた。

「全く、素直に傘を持つのを代わってほしいと言えばいいでしょう」

同時に、傘を奪い取られた。

「えっと、ありがとう」
「どういたしまして」

少しの沈黙の後、再び他愛のない話をしながら歩く。
ふと私は気付く。折り畳み傘はサイズが小さめに出来ている。気を使ってか彼は私の方に傘を寄せて差している。そのお陰で、私はあまり濡れていないが彼の肩はすっかり濡れてしまっていた。

「ナナミン肩が濡れちゃってる……」
「ああ、もう少しこちらに寄ってもらえますか」
「はーい。これでいい?」

元々そんなに離れていなかったが、更に彼の方に身を寄せた。彼の腕に私の肩が密着するくらいの距離。

「ナナミン?」

返事がないので彼の顔を覗き込む様に下から見上げると思いっきり顔を逸らされた。不自然すぎるそれに私は無意識のうちに何か彼の機嫌を損ねる様なことをしてしまったのかと不安になる。

「え、ナナミン?ごめん、私何かした?」
「いえ、何でもないので気にしないでください」
「そ、そう?」
「ええ、それよりそろそろ帰りませんか?」
「そうだね、帰ろっかー」

今まで歩いてきた道を戻る。
帰り道、やっぱり彼は顔を逸らし気味だった様な気はしたが、気にしないでくださいと言われたのでそれ以上言及はしないでおいた。
後で、硝子にその話をしたら物凄く可哀想なものを見る様な目を向けられた。


2019/05/28

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